大滝 一
「東野圭吾」読書好きでこの名前を知らない人はいないと思います。ヒット作を連発し、今乗りにのっている人気作家です。
ウィキペディアによると、作者は大阪府立大学の電気工学科卒業で、技術者としてデンソーに入社し、勤務の傍ら推理小説を書いていたとのことです。高校までは特別読書家ということもなかったようですが、高校2年の時に、偶然手に取った本をきっかけに読書にはまり、そこが起点となり作家の道へと進むことになったようです。
私が今までに読んだ作品は、直木賞を取った『容疑者Xの献身』、中央公論文芸賞受賞の『ナミヤ雑貨店の奇蹟』、さらには吉川英治文学賞の『祈りの幕が下りる時』のほかに、『プラチナデータ』『白銀ジャック』『疾風ロンド』などです。他にも著書は多く、江戸川乱歩賞、柴田錬三郎賞など多くの文芸賞を獲得しています。私が読んだ作品は、どの作品も頭から物語に引きずり込まれ、気付いた時には読み終えているという感じです。
今回紹介するのは、東野圭吾の2大長編『白夜行』と『幻夜』です。『白夜行』は850頁、『幻夜』は780頁で合わせて1,630頁で、それぞれ200万部、100万部を超えるミリオンセラーとなっています。
私は、多いと毎日、少なくても週に3日は本屋に行きます。そして、次に読む作品の目星を付けていますが、宮部みゆきの『ソロモンの偽証』と並んで、頭から離れなかったのがこの二作品でした。
読もうと思った今年の1月初めは、普段の診療に加え医師会の仕事、全国会議の司会とパネリスト、新潟市の養護教諭への講演、学校での授業、さらにはテレビ出演も控えており、かなり忙しかったのですが、強い読書欲には勝てず、仕事もしっかりやると固い覚悟を持って、この長編を読み始めました。どんなに忙しくても、読みたいものは読みたいものです。
まず『白夜行』です。主人公である魔性の女の19年間の物語で、彼女が小学生のころに起きた殺人事件から始まります。質屋の主人が廃墟ビルで殺害されますが、そこに被害者の息子が絡んできます。主演女優が魔性の女、助演男優がこの質屋の息子といった感じです。この魔性の女は大人へと成長しながら、いろいろな手立てを駆使し、周囲に悟られないように悪事を重ねます。そして、最終的には東京と大阪にショップを持つオーナーとなり社会的に大成功を収めます。この女に裏から協力するのがその男です。19年前の殺人犯は誰だったのか、女に翻弄される男の運命やいかに。時間も忘れるほどスリリングな展開で十二分に楽しませていただきました。
内容とは別に私がこの本を読んで面白いと思ったのは、ふつうは主人公の会話などが前面に出て物語が進みますが、『白夜行』では、中心となる二人はけっして前面に出てこないことです。二人が話す部分もわずかで、周りの人間に二人について語らせながら、この二人を物語の中心へと導いています。小説の手法という意味でも興味深い一冊でした。
次に『幻夜』です。こちらも女性が主人公です。話は父の借金の返済をせまる叔父を阪神淡路大震災のどさくさに紛れて殺害した男と、その場を見てしまった、震災で両親を亡くした女、という設定から始まります。この女、主演女優が、その男、助演男優に「本当のあなたを知っているのは私だけ。私が心から愛するのがあなただけ」と言いながらも、男をとことん利用し、様々なあくどい手法を用いて、震災被害者の娘という立場から銀座の有名宝石店の社長夫人へと登りつめます。
主演女優はたぐい稀な美貌と上昇志向をもつ本当の悪女です。目的のためには手段を選ばず。一方、助演男優は『白夜行』と同じく、この悪女に翻弄されます。この『幻夜』も息をつかせぬ衝撃的なミステリーで、息を呑むほどの結末でした。
まだ読まれていない方には、この2冊、絶対にお勧めです。
私は1週間でこの2冊を読みおえてしまいました。
東野圭吾はこれらの作品を通じて「したたかな女」を主題にしています。いずれも読み進むにつれ、登場する「怖くもしたたかな女性」に背筋がぞくぞくしました。東野圭吾さんに女性観を一度伺ってみたい気もしますが、私は日本の女性は世界で一番優しいと思っています。
東野圭吾は今後も期待大!
『白夜行』
著者 | 東野圭吾 |
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出版 | 集英社文庫 |
定価 | 本体1,000円+税 |
『幻夜』
著者 | 東野圭吾 |
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出版 | 集英社文庫 |
定価 | 本体960円+税 |
(平成29年5月号)