古泉 直也
フェルマーの最終定理は「n=3以上の自然数についてxn+yn=znとなる自然数の組(x,y,z)は存在しない」というもので、20世紀の末にアンドリュー・ワイルズによって証明された難問の一つです。見かけは簡単なので、いろんな人にもとりつきやすいのですが、証明は恐ろしく難しいと言われています。また、一般向けの解説本もあるようですが、この本『フェルマー予想』は本格的な学術本です。(じゃあ、難解なフェルマーの最終定理を自力で解説するの?なんて期待してはいけません)
岩波書店の紹介にも、楕円関数、保型形式、ガロア表現とわからない言葉がならび、アマゾンの読者の説明にも、代数幾何・スキーム、楕円関数、C上のモジュラー曲線の理論、コモホロジー・類体論の知識が最々低でもないと読めないとか書いてあります。新潟駅南のジュンク堂にも在庫はありますが、あまり仕事に関係なさそうな数論の分野は嫌いで、これがいわゆるそれか~と棚の近くを通ると分厚い単行本をとりもせずおそるおそる眺めているだけですごしておりました。
コンピュータ関連の本のKindle版をPCでみている最中に、ふと『群論 方程式はなぜ解けなかったのか』(講談社ブルーバックス Kindle版 中村亨 著)をぽちっと衝動買い、斜め読みして、なんだ“5次方程式が解けない”(正しくは、代数的に解の公式を求められない)ということはこんなことだったのかとわかったつもりになってしまいました。さらに統計の本に出てくる難しい積分の計算を理解するためにはなにやら“楕円関数”なるものの知識が必要らしいけど“楕円関数”というものを自力で調べてもさっぱりわからない、どう関連するのかもわからないと永らく苦しんでいたその“楕円”関数とは楕円の方程式(x2/a2+y2/b2=1)ではなく、y2=x3+ax2+bの形式の三次式をいうのだということがわかり、“楕円関数”の難しい話がわかったのではなく、「楕円関数は楕円の関数ではない」というしょうもないことがわかっただけなのに、楕円関数がわかったような気がしてちょっと調子に乗ってしまいました。
これはもしかすると、私はついに、この難しい『フェルマー予想』を読むため基礎知識が頭に入る準備ができたのでは?と勘違いしてしまったのです。
もっとも、岩波講座現代数学3大全集『現代数学の入門』、『現代数学の基礎』、『現代数学の展開』のうちの最上位『現代数学の展開』の『フェルマー予想1,2』を単行本化した『フェルマー予想』をいきなり読むというほど私もまだまだそこまではおこがましくはなく、その前の『現代数学の基礎』の数論系の『数論1,2,3』(加藤 和也,黒川 信重,斎藤 毅 著 岩波書店)のうち、数論1は『現代数学の基礎』シリーズで2冊組の他の本を買うときに一緒にすでに買ってあって、副題が“フェルマーの夢”で“夢”程度だったら(まだ開いてもいないけど)なんとなく読めそうだし、『数論2─類体論』『数論3─岩澤理論と保型形式』なので、“前に出てきた保型形式”も入っているので『現代数学の基礎』の数論系の数論1,2,3をよめば、『フェルマー予想』が読めるようになる?と思い込み、さっそく中古本よりも安い岩波オンデマンド形式の『数論Ⅰ、Ⅱ』でアマゾンから入手しました。
が、届いて読み始めるとすぐに挫折、“Lie群”とかが出てきてわからない。そもそも数論だけでなく代数幾何の知識が必要らしい。『現代数学の基礎』シリーズで2冊組の他の本を買うときにやっぱり一緒に『代数幾何1』が買ってあって、シリーズに『代数幾何2,3』というのもある。『代数幾何3』は副題が“スキーム論の展開”で、スキーム?もあればきっと必要な項目を制覇だ!これでついに『フェルマー予想』が読めるようになる⁈ということで、『現代数学の基礎』の『Lie群とLie環1,2』(小林 俊行,大島 利雄 著 岩波書店)と『代数幾何2,3』(上野 健爾 著 岩波書店)を中古本でアマゾンから入手しました。
『Lie群とLie環1』ではなんといきなり位相空間の話が登場。Lie群、Lie環のLieは中国系の李先生ではないというのはわかりました。が、数論だと思っていたのに、集合・位相の本をひっくり返して位相を勉強し直さないとといけないと中断。Lieはマリウス・ソフス・リー(Marius Sophus Lie)で、ノルウェーの数学者でした。
さらに、代数幾何はもっと難解でした。『数学入門(ちくま新書)』(筑摩書房)等の著者 小島寛之先生も「代数幾何というのは…高校で教わる「代数・幾何」を化け物のようにしたような分野だと思えばいい。(間に「・」があるかないかで雲泥の差なのだ)」と、ブログに書いていました。『現代数学の基礎 代数幾何1』では『現代数学の入門 代数1,2』等を丁寧に引用してあって、「ちゃんと『現代数学の入門』などの基本を勉強してからでないとその上の『現代数学の基礎』をいきなり読んでもわからないよ」と私のでたらめな乱買乱読を『現代数学の入門 代数1,2』『現代数学の基礎 代数幾何1,2,3』の著者の上野 健爾先生に説教されているような気持ちになってしまいました。
ブルーバックスでなんとなくわかった気になっていた方程式の解説は、以前にそのとき必要なところだけを斜め読みしてわかった気になっていた『現代数学の入門 代数2』にもすでにあり、ガロアは方程式=代数に数論=環とか群とかを持ち込んだということなのかしらとか、Lie群とは円周を循環する群にみたてるだけの話ではなく数論に位相を持ち込むことなのかしらとか?別分野が連携し合って数学ができているんだなと乱暴に体感できました。(理解したというのにはほど遠いですが、)
数学に限らず、物事はいくつもの分野の基礎の上に成り立っていて、必要だからといって一つの分野だけを読み進めればいいということではなくという、ちゃんと基礎を勉強しないとだめということでしょうか?あんまり私の性格には合わなさそうです。
ということで、『マイライブラリィ』なのに結局読み終わったのは読み直した『現代数学の入門 代数1,2』だけで、他の本は開いて途中で挫折しただけ、表題の『フェルマー予想』はこのマイライブラリィの執筆時点では買ってすらいないまだまだ遠い先です。岩波の数学の本は、本屋に売っていても出版してはいないものがあったりして、いつか読めるときに中古本もなくなっているといやなので買っておくことにします。まだ読める気しないけど。
『フェルマー予想』
著者 | 斎藤 毅 |
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発行所 | 岩波書店 2009/2/6版 |
中古本 | \7,400より |
(平成30年4月号)