佐藤 勇
最近街中で、広い範囲の宅地造成や、大規模マンションを中心にした数百世帯におよぶニュータウンの建設が目立つ。なんとなくおかしいと感じないだろうか。新潟市では、少子化に歯止めがかからず、ストロー現象もあるのか生産人口は減っている、そんな中でこの状況が生じているのである。
もちろん答えは一つ、家族の分裂が増えているに過ぎないからだ。
総務省の人口静態統計によると、65歳以上で子と同居している世帯の比率は全国平均が40.0%であるのに対し、新潟県全体では、54.5%と全国でもトップレベルである(平成25年)。しかし、新潟市の人口統計では、平成17年に人口811,901人、291,524世帯であったが、平成27年には人口810,157人 321,511世帯となっており、家族の分裂は増加している。
本書は実際にドイツに住む筆者が、日本の都市開発の根本的な間違いを、ヨーロッパとの比較で明快に解説してくれる。戸建て率が、フライブルグ市の15%に対して同じ規模の青森市が68%、持ち家率が、フライブルグ市の20%に対して青森市が60%以上(ドイツであれば、過疎地の農村レベルだそうだ)と説き、持ち家が一代限りで消費されている状況を示している。つまり日本の「まち」は一家族の家族構成、世帯構成が時間とともに減少し、「まち」は持続可能に機能せず、1世代の人生の半分程度の賞味期限と論じている。
この「まち」構成の違いが、人口減少の鍵となっている根拠を論じ、少子化問題の本質に切り込んでいる。この「まち」によって作られる都市構造の違いについて、日本のコンパクトシティとドイツのショートウエイシティという概念を比較している。都市の広がりを居住区という行政の勝手な線引きと、公共交通などでつなぐといった安直な机上の計画だけで、なんの規制もなく対処しようとするコンパクトシティ構想と、市場原理に任せて放置せず、居住区域内に日用品や日常サービスを提供する非居住スペースを織り込み、移動距離を短くしたショートウェイシティ構想とを比較論じている。このショートウェイシティという考え方は、その対極にある、生活のために車を運転せざるを得ない日本の高齢者の実態を私たちに思い浮かべさせる。
本書の中で展開されている「モータリゼーションが破壊したもの」は一読に値する。最近、本誌で発言が増えている自転車愛好家の方々には、第4章「マイカーを不便にするコミュニティのデザイン」、第5章「費用対効果の高いまち作りのツール、自転車」で書かれているドイツの交通事情を是非お読みいただきたい。
今年予定されている新潟市長選挙では、BRTは争点にはならないと言われている。おそらくは立候補者のほとんどが、BRTには反対、ないしは票のために反対のポーズを取るのではないかという予想である。それほど市民に人気のないBRTではあるが、私は都市の再生には必要な手段だと思っている。ただし、専用路線とアイランド型停留所、ゾーン30の適切な設定と自転車交通の整備と言った抜本的交通構造改革を伴って初めて意味がある。さらに最近は、高齢者向けの電動自転車の開発も必須だと思っている。
トラムが縦横に通り抜け、その間を埋めるように大多数のBRTが走り、自転車を抱えて当たり前に乗り込むヨーロッパの都市交通の姿をみてしまうと、そう夢見てしまうのである。
『ドイツのコンパクトシティはなぜ成功するのか─近距離移動が地方都市を活性化する─』
著者 | 村上 敦 |
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発行所 | 学芸出版社 |
定価 | 2,376円(税込み) |
発行日 | 2017年3月20日 |