西條 康夫
先生方の多くが様々なスポーツをしていると思います。ランニングはいつでもどこでも一人で出来ますので、医師にはいいスポーツだと思います。
今は走る機会がめっきり減りましたが、私もランニングにはまっていた時期があります。
見るランニングと言えば、マラソン大会もありますが、やっぱり箱根駅伝ですね。
2009年か2010年、ワシントンD.C.で開かれたアメリカ癌学会学術集会帰りの飛行機の中で、たまたま映画を見ました。タイトルは、「風が強く吹いている」で、殆ど素人の大学生が、箱根駅伝出場を目指しトレーニングし見事初出場を果たす映画でした。出張旅費は研究費からでしたので、もちろんエコノミーでしたが、大変面白く見たのを今でも覚えています。その後、同名の原作があることを知り、文庫本を購入して読みました。
作者は三浦しをんさんで、直木賞の受賞歴がありました。
内容は、都内のぼろアパート竹青荘に住む10名の寛政大学の学生が、箱根駅伝を目指すスポーツ小説です。陸上競技の経験がある1年生の走(かける)と4年生灰二を中心に、10人が箱根駅伝を目指して、トレーニングを積んで、見事箱根駅伝に出場を果たすというストーリーです。現実にはありえないとは思いつつも、ランニングや駅伝の魅力を強く感じることができます。私たち子供時代の「スポ根」ドラマとは違いますが、爽やかな読後感に包まれて、自分も走りたくなりました。この小説を読んでランニングを始めた読者もいるでしょう。
その後、三浦しをんさんの小説を沢山読みました。意外にも、スポーツを題材にした小説はこの『風が強く吹いている』だけです。若い男性を主人公に、一つのことに打ち込む姿を描いた小説などがいくつかあり、大変楽しく読みました。その中で、映画化された小説は、『神去なあなあ日常』『舟を編む』『まほろ駅前多田便利軒』などがあります。特に、『神去なあなあ日常』は、都会の高校卒業生が、田舎の林業組合に就職し成長していく話で、テンポよくストーリーが進み楽しい小説です。また、私たちにあまりなじみのない文楽の道に進んで、成長する若者を描いた『仏果を得ず』は、『舟を編む』に似た小説と言えるようです。今回は、主に若い男性が主人公の小説をご紹介しましたが、女性を描いた小説も多くあります。
三浦しをんさんの小説は、楽しく読めて、読後感が爽やかで、私は好きです。
『風が強く吹いている』
著者 | 三浦しをん |
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出版 | 新潮文庫 |
定価 | 961円 |
発行日 | 2009年6月27日 |
(平成30年10月号)