青木 朗子
「面白かったけど、読んでみる?」と、夫にすすめられて手に取った1冊です。最近読む本といえば、映画化された作品の原作か、あとは自己啓発本というのがお決まりのパターンでしたので、たまに違うジャンルの本も良いかなと思い読んでみました。
本書は、2000年代に『小説すばる』に掲載された短編作品の中から集英社文庫編集部が厳選した12編からなるアンソロジーです。特にテーマを揃えたわけではないようですが、「生と死」について考えさせられる作品が多かったように思います。どの作品もそれぞれの作家の個性にあふれていて楽しめましたが、その中から印象に残った作品をいくつか紹介させていただきます。
奥田英朗の「ここが青山」は、勤めていた会社が倒産してしまった主人公が専業主夫になるお話。どこまでもマイペースな主人公の生活ぶり、周囲の常識人たちとのギャップに思わずクスッと微笑んでしまう。生き方は人それぞれ、自分が幸せかどうかは自分で感じるものなのだと改めて気づかされました。ちなみに作中に何回か登場する「人間到る処青山あり」は、漢字を読める読めない以前にこのことわざ自体を知りませんでしたので勉強になりました。個人的には一番楽しめた作品です。
道尾秀介の「ゆがんだ子供」は、正味5ページの超短編ですがもの凄いインパクトのホラーです。始まりから終わりまで不思議な世界観にドキドキしながら読みました。あまりに短くて1回目は内容がよく理解できず、2回目を読み終えるとゾッと恐怖を感じて鳥肌が立ちました。
石田衣良の「ふたりの名前」は、一緒に暮らしているけれど家中のものに名前を書いてお互いの所有権を明確にしようとするカップルが主人公。そんなちょっとドライなふたりのもとに子猫が仲間入りしたことで、ふたりの関係に変化が現れます。動物病院で生死の境をさまよう子猫をめぐるやり取りには、もし同じ状況になったら…と我が家のチワワを想い涙しました。動物好きな人には泣けてしまう作品かもしれません。
浅田次郎の「金鵄のもとに」は衝撃的な内容でした。戦後間もない東京で懸命に生きようとする帰還兵の苦難を描いた作品です。激戦地での極限状況における人間の行為と、そこにある複雑で異常ともいえる優しさは、読んでいて苦しくなってしまいました。
宮部みゆきの「チヨ子」は、バイト先でかぶったウサギの着ぐるみの不思議なお話。宮部作品ということで最初はミステリーかと身構えましたが、読み進めていくと最後はほっこり、温かい気持ちにさせてくれました。こういう作品も書かれるのかと新しい発見でした。
自分で選ぶ本は、ついついお気に入りの作家や読み慣れたジャンルのものに偏ってしまいがちですが、本書ではいろいろな作家の作品に出会える楽しみがありました。中には内容がかなり衝撃的で、この本を手にしなかったら読むことはなかっただろうなと思う作品もありましたが、それぞれが短編なので読みやすく、それでいて内容はしっかりしており読みごたえがありました。読書の幅を広げたいと考えている方にはオススメです。この中から気に入った作家の長編作品を読んでみるのも良いかもしれません。
『短編工場』
出版社 | 集英社文庫 |
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発行日 | 2012年10月 |
定価 | 720円+税 |