阿部 尚平
『サイレント・ブレス─看取りのカルテ─』
この本を御紹介するには、まず、著者について触れなくてはならない。1961年生まれ。日本女子大卒。25才で結婚。夫がイギリスに転勤。現地で出産、子育て。帰国後33才で東海大医学部入学、38才卒業。その後再び夫の転勤でスイスに渡り、帰国後、終末期医療に携り、現在は都内の終末期医療専門病院に内科医として勤務中。30才を過ぎてから医師になろうと思い、子育てしながらの研修医時代。55才での作家デビュー。凄まじいパワーの持ち主。それだけで圧倒されてしまう。
内容は、大学病院の総合診療科に勤務する、主人公の医師が、入局10年目に、突然、訪問クリニック、即ち、訪問診療に特化した診療所に転勤となる。そこでの6話が載っている。治せない患者の思いにどう応えて行くのか。「死なない人間はいない。死は負けではなく、ゴールなのです。」という一節が、心に残ります。
『新章 神様のカルテ』
こちらの著者は、1978年生まれ。信州大医学部卒。2009年第1作目、『神様のカルテ』でデビュー。今回御紹介の本は、シリーズ第5作目。信州の自然の描写も美しく、全体として、それぞれの話題に山あり、谷あり。主人公は卒後9年目の大学病院消化器内科で仕事をする、大学院生です。流石に大学。自己免疫性膵炎2型などという、レアーな疾患まで登場。29才進行膵癌の症例が大きな柱になって、話は展開。そして在宅医療にまで、話は及ぶ。医療が抱える多くの問題が提起されます。
その他の御紹介
◦『眉山』
〔さだまさし 著。2007年4月幻冬舎〕
古き良き時代に生きた、日本女性の凛とした生き様に、背筋が、すっと伸びてしまいます。
◦『風に立つライオン』
〔さだまさし 著。2013年7月幻冬舎〕
“医師が患者から奪ってはいけない最も大切なもの、それは、希望。”
“風に立つライオンは、いい歌だなあ。あんな凄いライオンにはなれないけど、八ヶ岳に立つ野ウサギくらいにはなりたいなあ。”
◦『アントキノイノチ』
〔さだまさし 著。2011年8月幻冬舎〕
一寸、特殊なお話ですが……。
◦『天国までの百マイル』
〔浅田次郎 著。2015年8月講談社文庫〕
何も申し上げる事はありません。未読の方は是非どうぞ!
◦『おもかげ』
〔浅田次郎 著。2017年11月毎日新聞出版〕
全体の構成がおもしろい。ほっこりとした夢の世界で遊べます。
◦『くちぶえ番長』
〔重松清 著。2007年7月新潮社〕
こんな番長なら、手下になってもいいかな。実は、その番長、作者、重松さんの、……。
◦『とんび』
〔重松清 著。2011年10月角川文庫〕
正にトンビが○○を産んだというお話。
痛快、軽快、一気読み必定。
◦『こころ物語』
〔鈴木健二 著。1991年9月講談社〕
著者は、元NHKのあの有名なアナウンサー。作者、旧制弘前中学時代のお話。今なら、「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と、5才の女の子に叱られそう。既に絶版になっており、お求めは、ネット等でお探しになるしかないと思われます。
◦『峠しぐれ』
〔葉室麟 著。2014年12月双葉社〕
如何にも葉室麟の世界です。
◦『あなたへ』
〔森沢明夫 著。2012年2月幻冬舎〕
映画化もされましたが、やはり、本の方も……。
◦『こころのつづき』
〔森浩美 著。2012年12月角川書店〕
短編集。第一話、光っています。森ワールドと云われている、家族物シリーズ。他、多数あり。
これまで、この欄では、1回に1冊という形の様でしたが、折角の機会ですので、小生の記憶に残るオススメを、いくつか御紹介させて頂きました。これらの中には、金や銀に相当する作品があるかも知れません。はた又、単なる路傍の石かも知れません。残念ながら、万一その時には、どうか、「笑って♪、許して♪」下さいませ。
今までに出会えた本達に、心より、
「アリガト――!」
『サイレント・ブレス─看取りのカルテ─』
著者 | 南杏子 |
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発行日 | 2018年7月 |
出版社 | 幻冬舎 |
定価 | 本体650円+税 |
『新章 神様のカルテ』
著者 | 夏川草介 |
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発行日 | 2019年2月 |
出版社 | 小学館 |
定価 | 本体1,800円+税 |
(令和元年6月号)