須田 生英子
今回紹介させていただくのは、家族から紹介されて手に取ったコミックです。「月刊少年シリウス」に2015年3月号より連載されているそうですが、私は最近その存在を知りました。現在までに01~05の5巻が刊行されています。また、人気シリーズなのでしょうか、「はたらかない細胞」「はたらく細胞BLACK」「はたらく細胞フレンド」なども出版されています。2018年にはアニメも放送されていたようですし、2019年3月には第2期の放送が決定したそうですから、TVでご覧になった先生もいらっしゃるかもしれません。
コミックは1話完結で、様々な外敵(細菌、ウィルス)の侵入や熱中症、出血性ショックといった病態を自分が細胞レベルになった気分で体感することができます。お話の中には体内の様々な細胞が登場しますが、なかでも『赤血球AE-3803番』のお嬢さんと『好中球U-1146番』のお兄さんが主役級でしょうか。脇役としても様々な細胞が登場しますが、個人的にはマクロファージのメイドさんのような外見と強さのギャップに萌えます。このコミックの面白さを上手く伝えられるかどうかわかりませんが、今回は2話ほどの内容を紹介させていただこうかと思います。
まず01巻第4話〈すり傷〉です。擦過傷はあまりに軽微な疾患すぎて、普段はほとんど注目することもないかもしれません。でもこれを細胞の視点から覗いてみると…ある日突然皮膚近くの血管に巨大な穴(欠損)が生じ、そこから血球たちが次々と体外へ引っ張り出されていってしまう状況なのです。その映像は、さながら「謎の地球外生命体の仕業で地球の重力に欠損が生じ、その欠損部分から人類が次々と宇宙空間へ放り出されていってしまう」というウルトラマンやレンジャーシリーズのイントロに出てきそうなシーンと全く一緒です。また、この血管の欠損部からは、かつてのバルタン星人やゼットン(かなり古い喩で申し訳ありません)なんかよりもっと強くて恐ろしい姿の黄色ブドウ球菌、レンサ球菌、緑膿菌たちが、人体の征服をもくろみ次々と侵入してくるのです。これも小さい頃にドキドキしながらTVで観た映像そっくりです。が、なにせ実際に体内で起きていることなのですから、リアリティは格段に上です。ここから『好中球U-1146番』が登場し細菌たちと死闘を繰り広げるのですが、彼はレンジャーシリーズのヒーローと違い必殺技を持ち合わせていません。なんと擦過傷ごときの戦いに負けそうです。あわやここまで…と思ったときに何とも意外な助っ人が登場します(ここで負けてしまうようでは、私たちはいくつ命を持っていても足りませんものね)。お話の結末は、是非コミックで面白さを味わっていただきたいと思うので、この要約はここまでに留めておきます。
次のお話は、02巻第8、9話の〈がん細胞〉です。体内ですから、題名を見た時から悪役としてのがん細胞が登場すると予想します。実際ヒール役としては素晴らしい『がん細胞』がNK細胞と戦うお話です。『がん細胞』はこの中でNK細胞に向かって「味わわせてやろうと思ったんだよ…お前たち免疫細胞に多対一の暴力で殺される気分をな‼」と叫びます。そうです…遺伝子のコピーミスで作られ、仲間だったはずの免疫細胞たちに追われ、殺されていく『がん細胞』…。そんな『がん細胞』は「なんで殺されなきゃならないんだ…‼何も悪いことなんてしていないのに…ただ生まれてきただけなのに!」と訴えるのです。正直、私には反論する言葉が見つかりませんでした。このお話では、たっぷり笑ったNK細胞が活性化し(本当は、人間が笑うとNK細胞が活性化される訳ですが、そこは置いておきましょう)、がん細胞をやっつけます。今までは、ただ排除すべき存在としか考えたことがなかった『がん細胞』の立場から物事を見ると、見え方はこんなに変わるんだ、と非常に考えさせられました。
以上、わずかなりともこのシリーズの面白さを伝えることができたら幸いですが、どうでしたでしょうか。このコミックは一定の評価を受けているようで、滋賀県湖南市では広報誌「Konan」でコラボしたことがあります。また日本赤十字社では、献血で書き下ろしオリジナルカレンダーがもらえるキャンペーンを行ったこともあります。たしかにマンガは、人体や疾患に造詣を深めてもらうには格好の媒体ではないかと思いますので、今後新潟市医師会でもコラボ企画などいかがでしょうか。またコミックに興味を持たれた先生は、Kindleでお試し版が配布されていますので、是非ご自身で確かめてみてください。
『はたらく細胞』
著者 | 清水 茜 |
---|---|
発行所 | 講談社 |
発行日 | 2015年7月9日 |
定価 | 600円+税 |
(令和元年7月号)