熊谷 敬一
日本人にとって重要な食べ物の一つがウナギである。ウナギが好きな人は多いと思うが、近年耳にした中で特筆すべきは、元プロ棋士の加藤一二三九段がテレビでおっしゃっていた話である。加藤九段は現役時代、毎日昼夜とも食事はうな重だったという。特に夕食にはより栄養があるようにと、ウナギ2枚重ねにしたものだったとのことである。おそらくは将棋会館近くの有名ウナギ店から出前されたものだと思うが、2枚重ねというのがメニューにあるのか特注なのかは不明である。いずれにしても高カロリー高たんぱく質で栄養十分なうな重が、多忙な現役時代の活躍を支えたものと思う。もう一つ例として上げれば、最近、回転寿司のある全国チェーン店でカードをコラボレーションで景品につけるというキャンペーンがあったが、その対象商品がうな丼ダブルまたはトリプルというものだった。寿司店であるにも関わらず寿司ではなくウナギだったということは驚きである。
ウナギがなぜこれほどまでに好まれるのかというと、かば焼きという調理法がウナギにとてもよく合っており絶妙なおいしさを引き出しているからだと思う。つまり初めにせいろで蒸して余分の油を落とすことにより、焼いたときに程よく柔らかさをたもちながらからっと焼くことができる。バランスよく調味されたたれがウナギのうまみを一層引き立たせる。もちろんお酒を飲むときは白焼きもおいしいと思う。
このように日本人にとって重要でなじみのあるウナギだが、環境省や国際自然保護連合によりニホンウナギが絶滅危惧種とされている。現在の捕獲と消費が続く限りいずれ絶滅する恐れが非常に高い。そうなると当然ウナギが食べられなくなってしまう。絶滅を防ぐためには持続可能なニホンウナギの養殖が必須であると著者は述べている。しかし、それを実現するためには多数の困難を解決しなければならない。シラスウナギの捕獲や取引の際に、密漁や密売が横行しており、河川環境の劣化や、放流にも問題点があるという。これらの問題点について著者は一つ一つ根拠を示して納得できるように説明している。これらの違法行為を根絶して、シラスウナギのトレーサビリティを確立することが必要であるとのことだが、本格的な対策はようやく始まりつつある段階である。著者は研究者として中立かつ独立した立場から、業者にとって不利益と感じる発言や行政への批判をしてきたため、発言しないようにと介入されたり、他の研究者から学会への出入りを禁止されたりしたという。それほどまでに信念をもって研究を行っているということは敬服すべきである。
この本を読んだ限りでは、現状で食べることのできる最も望ましいウナギは、日本国内屈指の大手小売業者が発売しているウナギで、シラスウナギの採捕水域までトレース可能でクリーンなニホンウナギであると思われるが、数量はごく一部にとどまっているとのことである。ウナギが好きな人や環境問題に興味のある方には一読をお勧めする本である。
『結局、ウナギは食べていいのか問題』
著者 | 海部 健三 |
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出版社 | 岩波書店 |
出版日 | 2019年7月18日 |
定価 | 1,200円+税 |
(令和3年8月号)