新潟県立がんセンター 佐藤 信昭
2020年3月にはじまった新型コロナウイルス感染症の拡大により、これまで当たり前のように行ってきた講義、実習をはじめとする教育活動、学会や研究会などの学術活動、症例検討会などが対面ではできなくなった。感染予防として
密閉・密集・密接の3密を避けるため、オンライン上で情報をやり取りし、コミュニケーションをとるためのInformation and Communication Technology(ICT)の知識や技術を身につけることが求められている。
著者は新潟大学医歯学総合病院総合研修部副部長・医師研修センター副センター長である。私がこの本を手にしたきっかけは、著者のオンラインセミナーの講演を視聴したことにある。内容はZoomを用いたZoomの使い方講習からZoomによる教育事例検討会まで、2か月弱で行った計18回の勉強会で、現場の試行錯誤の中から生まれた声を書籍化したものである。
著者はとくにICTに詳しいわけではなかったそうだが、Web会議Webexを用いた医学教育プログラムを受講、オンラインで英語レッスンできるDMM英会話を利用していたことで、オンライン講義の面白さ、コツや注意点を知っていた。また医学教育を学んでいるために、どのように人にわかりやすく教えるか、伝えるかの知識を持っていた。良きオンライン講義を作るためには対面式と同様の講義の内容の充実だけでは不十分で、対面で行ってきた「伝えたいことを伝える講義」から「伝えたいことを相手から引き出す講義」への変換が必要であり、そのために、「①ちょっとしたICTの知識、②ちょっとした教育のコツ、③学習者への愛や情熱が必要」と述べている。
偶々、新型コロナウイルスが出現する以前から、ICTを積極的に取り入れ、新しいテクノロジーとしてのオンラインだけでの授業からなるミネルバ大学(2014年9月開校)を知った。ミネルバ大学の評価は高く、世界中から優秀な学生が集まり、入試の合格率は約1%と言われている。創立者ベン・ネルソン氏によれば、教育の目標は初めて経験する状況でもやるべきことがわかる人材を生み出すことである。ミネルバ大学はキャンパスを持たず、4年間で7都市を移動しながら学ぶ全寮制の大学である。一般に学費が高い理由の一つに広いキャンパスを維持するための多額の費用があげられる。逆に、ミネルバ大学ではキャンパスを持たないことで学費の低廉化を実現した。講義はすべてオンラインで行われ、ディスカッション中心の授業と企業などと協働して進めるプロジェクトを通じて課題解決の手法を学ぶという、大変ユニークなカリキュラムをとっている。
『事例で学ぶ「医療者のためのWeb会議システム活用メソッド」』を読みながら、医療とは離れるものの教育に関して、オンラインはオフラインに必ずしも劣らないのではないかと考えさせられた。
『事例で学ぶ「医療者のためのWeb会議システム活用メソッド」』
著者 | 磯部真倫(新潟大学産婦人科学) |
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出版社 | 中外医学社 |
発売日 | 2021年2月19日 |
定価 | 4,180円 |
(令和3年10月号)