大滝 一
この1月9日からNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」が放映されています。これは北条義時を中心にした話で、その義時を小栗旬が演じ、脚本を三谷幸喜が担当していることもあり、第1回の放送を前にしてとても楽しみです。
全く話は変わりますが、大学入試の社会の選択は日本史でした。その時に勉強はしたのですが、この鎌倉幕府における源氏と北条家の関係がいま一つ掴み切れず、そこに大江広元、和田義盛、比企能員などの豪族が入ってきて、尚更混沌としたままとなっていました。そんなこともあり、この大河ドラマをきっかけに今一度鎌倉幕府の勉強も兼ね、また人物像が特に気になっていた北条政子について知りたいと思い、この文庫本を手に取ってみました。ご存じの如く、政子は北条時政の長女で義時の姉、そして源頼朝の妻です。
この政子を中心に話は進みますが、なぜ政子が源平合戦の敗北で流人となった源頼朝と結婚することになったのか、また約20年もの間流人でしかなかった頼朝が坂東武者の棟梁となり武家社会を作りえたのか、この本を読むとなるほどよく分かります。
政子の人となりについては諸説あり直情型、強情、嫉妬深い面が強調されがちですが、思いやりと迅速な決断力を持ち、慈悲に溢れ、度重なる悲運にも負けない強くしたたかな女性とも言われています。おそらくいずれも政子という人間を具現しているものと思います。
本書の中では、まず頼朝と激しい恋に落ちた政子が描かれています。流人である頼朝との結婚に猛反対する父の北条時政が政子の結婚相手を強引に決め、その祝言の準備もすっかり整ってしまいます。しかし、まさにその時、愛し合う二人は駆け落ちをします。当時の通念であれば、二人は惨殺されてもおかしくないのですが、隠遁先で二人に子供ができたことから時政も二人を夫婦として認めざるを得なかったようです。
頼朝と政子には4人の子どもがいます。長男は鎌倉幕府2代目将軍の頼家、次男が3代目将軍の実朝ですが、この二人は不幸にもいずれも誅殺されてしまいます。また二人の娘は、いずれも京の由緒正しい高家に嫁ぐことがほぼ決まりかけたところで病死します。妹は毒殺されたという説もあります。また夫の頼朝も突然の落馬から端を発し亡くなり、夫と子供という大きな生き甲斐を失ってしまいます。しかしここで折れないのが政子たる所以です。ここ一番で悲しみと苦悩を乗り越え奮起し、尼御台として政の実質的な主役を務めたのです。その政子を支え、後継者となったのが北条泰時です。
それにしても、この本を読んで感じたのは「13人衆」の中での陰謀、だまし討ち、暗殺があまりにも頻繁であったことです。将軍の補佐とは名ばかりで、それぞれが地位と権力が欲しい故の暗躍、暗闘を繰り返すのです。この辺りがドラマではどのようになるのか、三谷幸喜の腕の見せ所と思います。
尼御台と称され、時の政権の執政であった北条政子。本書を一読し、政子から見た泰時と諸豪族という視点で「鎌倉殿の13人」を見ると、また違った面白さを味わえるのではないかと思います。読み進めるにしたがい、難局における勇断、そしてその後に苦悩する政子の姿に人間としてどんどん引き込まれること必至です。
また、著者永井路子の直木賞受賞作「炎環」は、政子の妹の保子、弟の義時などに焦点を当てた短編集からなっており、こちらも是非お勧めします。
『北条政子』
著者 | 永井路子 |
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出版 | 文春文庫 |
発行日 | 2021年1月10日 |
定価 | 本体1,067円(税込) |
(令和4年2月号)