木村 洋
青空と一口にいっても、その色合いの感じ方は人によりさまざまです。15階級の青空サンプルと比較して空の青さを記録することもあるとか。雲や雨にも青雲、白雲、青雨、緑雨など様々な色が付けられています。風にも色々の色があるそうです。青草を吹く春の青風、朱風は夏の風、白風は秋風など…。(倉嶋厚『風の色、四季の色』丸善出版株式会社)
視覚障がい者は夜明け、空の高さ、季節の移ろいなどの何気ない日常を鳥のさえずりによって体感するとか。視覚障がい者の感性は健常者である私には到底理解できないものだと思います。
本書は辻井伸行を世界的ピアニストに育てた母、辻井いつ子の伸行との音楽の旅物語です。
タイトル(曲)は、視覚障害があるからといって悲観的にならずに自分らしく生きていけるようにと、ポジティブな視点で「りんごは赤」、「バナナは黄色」と食べ物にも色があることを教えていた頃のこと、「今日の風は何色なの?」と聞いたエピソードに基づいています。それを元に母親がパーソナリティーを務める番組のテーマ曲として伸行が自作・自演したものです。優しく、爽やかな旋律で心穏やかにしてくれる曲です。
おもちゃのピアノで楽しそうに演奏する盲目の少年に音楽への感性を感じ、その才能を開花させた母の記録です。その場面は第2章ショパンの「英雄ポロネーズ」に書かれています。そして、音楽の神様に出会い、その神様に導かれるように親子での波乱万丈のピアニストへの旅が始まります。収められている10曲各々にまつわるエピソードが淡々と描かれていますが、それぞれが涙を誘います。クライマックスは「ヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクール」での優勝とそれに続くカーネギー・ホールにおけるソロ・コンサートへと進みます。私があれこれ述べるより、一度お読みいただき、母親の思いを感じながら伸行の演奏もお楽しみください。本格的なクラシックファンには物足りないと思いますが、クラシックに縁のない私でも聞きなじみのある曲ばかりで、辻井伸行ピアノ小品集としても、またイージーリスニングとしても最適と思います。
『今日の風、なに色?』CDブック
著者 | ピアノ・辻井伸行 文・辻井いつ子 |
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出版 | アスコム |
発売日 | 2016年6月24日 |
定価 | 1,500円+税 |
(令和4年12月号)