石崎 悦郎
今回は会員の先生方がほとんど、というか全くお目にかかったことがないであろう本をご紹介しようと思います。
その本は『日本巨人伝 山田顕義』です。(発行は講談社で定価は1429円です。)
山田顕義とは日本大学の前身である日本法律学校を創設したその人で日大の学祖と呼ばれています。ちなみに顕義は「あきよし」と読みます。ここで自己紹介のようになりますが私は昭和57年に日大医学部を卒業し、この10年あまりの間は日大医学部同窓会新潟県支部長を拝命しております。著者である佐藤三武朗も日大文学部卒でその後国際関係学部長を歴任されています。そんな私と同窓会の関係があり、数年前に同窓会本部からこの本が送られてきましたので私が自分で購入したわけではありません。おそらく全国の同窓会関係者に広く配布されたものと思います。
私の日大入学後からしばらくの間の知識では山田顕義は現在の山口県萩市に萩藩士の長男として生まれ、14才という若さで吉田松陰が営む松下村塾に入りいろいろな研鑽を積んだ後、日本法律学校を創立した、言わば文系のような人物で幕末の戦乱とは大きな関係はないのだろうと勝手に思っておりました。私も以前萩を訪れたことがありますがあまりにも小さい松下村塾の建物が残っており、そこからほど近い誕生の地に日大が整備した顕義園という記念公園のようなものがあってそこに山田顕義の大きな銅像が立っています。しかしこの本を読んで最も驚かされたことは山田顕義という人は幕末の戊辰戦争において最後の五稜郭の戦いまで従軍し、後に陸軍中将にまで上り詰めたまさに本物の軍人であったことです。この間の北越戦争では長岡城の攻略を支援しています。この軍人山田顕義が明治4年11月から岩倉使節団の一員として木戸孝允、大久保利通、伊藤博文などと共に欧米諸国を回りましたが、それは欧米の軍事制度の研究が目的の兵部省理事官として随行しており、全くの軍人としての任務がありました。しかしフランス滞在中にナポレオン法典に強い影響を受けて「兵は凶器なり」「法律は軍事に優先する」と確信して以後法律の研究に没頭するようになります。ナポレオンはヨーロッパ諸国を武力で鎮定しただけでなく法典を作成してフランスを法治国家として確立したからです。さらにその後明治18年12月に発足した第1次伊藤内閣では初代司法大臣となり、23年11月に施行された大日本帝国憲法でも司法大臣としてその名を連ねています。
このようにこの本には幕末の戦乱の中、山田顕義を中心に日本が法律の確立とともに近代国家へ変わっていく様子が詳しく綴られています。私自身もこの本を読むまでは知らなかったことが多々ありましたしナポレオンについて認識を新たにしました。そして軍事力や兵力によるものではなく、法によって作り出される秩序と社会の安定が一つの国家のみならず世界中で最も重要であるということを教えられたように思います。最近はこれとは反対にいろいろと不祥事が目立つ我が母校ですがこのような大きな目的や理想のもとに設立に至ったということを皆様に分かっていただければ幸いです。
なおこの本はネットでは手に入るようですがすでに各書店からは消えているようです。世の中には幕末ファンと呼ばれるような方々も多数おられるようですし先生方の中でもぜひ読んでみたい、と希望されるようでしたらお貸ししますので遠慮なく私までご連絡ください。よろしくお願いいたします。
『日本巨人伝 山田顕義』
著者 | 佐藤三武朗 |
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出版 | 講談社 |
発売日 | 2011年1月15日 |
定価 | 1,429円 |
(令和5年2月号)