新潟市医師会

  • 新潟市内の医療機関を探す診療科から
    • 内科
    • 小児科
    • 整形外科
    • 皮膚科
    • 眼科
    • 外科
    • 耳鼻咽喉科
    • 産婦人科
    • 精神科
    • 脳神経外科
    • 泌尿器科
    • 脳神経内科
    • 心療内科
    • その他
  • 新潟市内の医療機関を探す地域別から
    地域から探す
    • 秋葉区
    • 北区
    • 江南区
    • 中央区
    • 西蒲区
    • 西区
    • 東区
    • 南区
  • 休日・夜間に病気になったら急患診療センター
  • カラダのこと考えてますか?病気と健康のあれこれ
  • 医師会について
  • 市民の皆様へ
  • 医療関係者の皆様へ
  • 会員の皆様へ
  • 入会申込

新潟市医師会報より

新潟市医師会

『80歳の壁』

笹川 基

『80歳の壁』は、2022年の年間ベストセラー総合部門第1位(日本出版販売株式会社調べ)に輝いた。書店店頭の陳列棚には、『70歳が老いの分かれ道』、『老いの品格』、『ぼけの壁』など、人気書籍が山積みされている。

和田秀樹氏は老年精神医学を専門とする精神科医であるが、映画監督など多分野で活躍している。とりわけ小説家として多くの著書を執筆しており、これまでの出版部数は、何と800冊を超えている。教育をテーマにした書籍も多いが、近年では脳の老化など扱ったものが多い。

著者は、老人医学の研究施設として開設された浴風会病院に長年勤務し、6,000人以上の高齢者医療に従事した。在籍35年間に2,000件以上の病理解剖が実施されたが、85歳以上では、ほぼ全例でアルツハイマー型変性所見が認められた。認知症の発症が80歳以降急激に増えることに基づき、高くて厚い「80歳の壁」をどう超えるのか、話が展開する。

65歳以上の人は「高齢者」、75歳以上の人は「後期高齢者」と定義されるが、80歳以上を「幸齢者」と呼ぼうと著者は提案している。すべての高齢者に、最期の瞬間まで幸せな人生を歩んで欲しいとの願いが籠った素敵な言葉だと思う。

令和元年の日本人男性の健康寿命は72.7歳、女性では75.4歳であるが、残された晩年を幸せに過ごすためにはどうしたらよいのだろう。

80歳を過ぎると、それまでにはなかったことが「幸齢者」に起きる。さまざまな体調不良、脳梗塞・心筋梗塞・がんなどの発症、軽度認知障害から認知症、配偶者など親近者の不幸、など。これらは老いると誰にでも起こることであり、老いを受け入れ前向きに捉える。しなくてもいい我慢はせず、好きなものを食べ好きなことをすることで、脳は活性化し免疫力も上がると述べている。

年齢を重ねると脳の老化により、海馬や前頭葉(感情や行動の司令塔)が委縮し、行動意欲が低下する。しかし、行動しないと余計委縮が進行し悪循環に陥る。歩くこと(「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンが分泌される)、イライラしたら深呼吸(活発になった交感神経が鎮まる)、暑いときはエアコンと水分補給(熱中症による死亡者の8割は高齢者)、十分な咀嚼(胃腸への負担軽減、食べ過ぎ防止、脳への刺激、虫歯や歯周病予防)、食べたいものを食べる(やや肥満の人が一番長生きするというデータがある)、肉好きがよい(牛肉、豚肉にはセロトニンの材料となる物質が含まれる)、脳トレばかりしていないで好きなことをする(脳が活性化する)、などが「80歳の壁」を超える「正解」のようだ。人生最大の財産は「思い出」であり、残せるお金があるなら「思い出」のために使おうと勧めている。

しかし、医学的に疑問を感ずる主張も、記載されている。

まずは、「幸齢者にはガン治療は必要ない」。発見されたときにはすでに転移しており、臓器切除により不調が生じるだけである。また、抗がん剤により免疫が低下し、他の病気を誘発したりがんの進行を早めるとも書かれている。悪性腫瘍の診療では、転移を含めた病巣の広がり、年齢を含め全身状態を把握した上で治療方針を考える。副作用を含め、十分な説明を患者・家族にして治療法が決定される。治療放棄することにより寿命を縮めることは、許されるのだろうか。がん治療では「闘病」ではなく「共病」が大切であり、「がん細胞を手なずけながら生きてゆく」ことを勧めている。「がん細胞を手なずける」治療とは、なんだろう。

次は、「長生きの薬はない、薬は不調があるときに飲む」。もちろん、寿命を延ばす薬などない。糖尿病や高血圧で動脈硬化を併発した「幸齢者」では、経口薬により血糖値・血圧を正常値まで下げると酸素や栄養成分が全身細胞に行き渡らなくなるため、血糖値・血圧などは高めにコントロールするのがよい、というのは理解できる。しかし、脳梗塞や心筋梗塞などに至らぬ限り、「不調」となる症状はない。「不調」となってからの治療開始でよいのであろうか。

本に巻かれた帯の表には「老いを楽しく乗り越える、高齢者のバイブル」、裏には「ラクして壁を超えて寿命をのばす『正解』があります」、「食べたいものを食べお酒も飲んでいい、健康診断は受けない方がいい、ガンは切らない方がいい、『脳トレ』よりも自分が好きなことをする、認知症になっても生きる力と知恵は最後まで残る、血圧・血糖値・コレステロール値は下げなくていい、薬は不調があるときだけ飲めばいい、運転免許は返納しなくていい、運動はほどほどに散歩が一番」と書かれている。帯は書店を訪れた客の目に止まり、キャッチコピーに惹かれて購買する人も多く、重要な本のパーツである。固く真面目な医学知識だけを並べた書籍には、魅力がないのだろう。立ち止まった人の目を引くこうしたキャッチコピーが、ベストセラーとなる秘訣であろうか。

『80歳の壁』

著者 和田秀樹
発行所 幻冬舎
ISBNコード 978-4-344-98652-7
発行日 2022年3月25日
定価 本体900円+税

(令和5年4月号)

  • < 『ダビデの星を見つめて─体験的ユダヤ・ ネットワーク論』
  • 『時代 ─フォト俳句─ 』 >
新潟市医師会報より
新潟市の素描画
  • 2025年度作品一覧
  • 2024年度作品一覧
  • 2023年度作品一覧
  • 2022年度作品一覧
  • 2021年度作品一覧
  • 2020年度作品一覧
  • 2019年度作品一覧
  • 2018年度作品一覧
  • 2017年度作品一覧
  • 2016年度作品一覧
  • 2015年度作品一覧
  • 2014年度作品一覧
  • 2013年度作品一覧
  • 2012年度作品一覧
  • 2011年度作品一覧
  • 2010年度作品一覧
  • 2009年度作品一覧
  • 2008年度作品一覧
  • 2007年度作品一覧
  • 2006年度作品一覧
  • 2005年度作品一覧
巻頭言
学術
特集
病気と健康のあれこれ
寄稿
開院の自己紹介
わたしの好きな店
マイライブラリィ
私の憩いのひととき
旭町キャンパスめぐり
病院だより
勤務医ツイート
Doctor's Café
理事のひとこと
新潟市一次救急医療施設の利用状況
あとがき
  • トップページへ
  • ホームページTOPへ戻る
  • このページの先頭へ
新潟市医師会事務局
〒950-0914 新潟市中央区紫竹山3丁目3番11号
TEL : 025-240-4131 FAX : 025-240-6760e-mail : niigatashi@niigata.med.or.jp
  • ご利用にあたって
  • プライバシーポリシー
  • サイトマップ
  • リンク
  • お問合せ
©2013 Medical Association of Niigata City.