竹之内 辰也
今回は作文の指導書を紹介させて頂きます。このようなタイトルの本の書評を執筆するのはとても勇気がいるのですが…。
本書を書店でみつけたのは10数年前で、「読み手をうまい!とうならせる文章術の極意を教えます」という表紙の謳い文句につられて購入しました。著者は出版社勤務中に書籍の編集に携わり、独立後から執筆活動を始めたそうです。カラーイラストを交えた100ページ足らずのボリュームですので、根気がなくて読書が苦手な自分のような者でも、疲れずにすぐ読めます。本書には、読み手に伝わりやすい文章にするための基本ルールや工夫がたくさん盛り込まれており、「NGな文章」と「頭のいい文章」を対比させた実例で解説しているため、とても分かりやすい構成になっています。いくつか例を挙げますと、
「読み違いを防ぐ読点の打ち方」
×警察官は血まみれになって逃げだした犯人を追いかけた(誰が血まみれなのか分からない)
〇警察官は、血まみれになって逃げだした犯人を追いかけた
〇警察官は血まみれになって、逃げだした犯人を追いかけた
「なるべく肯定文で書く」
×風邪で出社していない
〇風邪で休んでいる
×小早川秀秋の裏切りがなければ、徳川家康は勝利しえなかった
〇小早川秀秋の裏切りのおかげで、徳川家康は勝利した
「直訳調、漢語調の表現を避ける」
×それは、怠慢以外の何物でもない
〇それは、怠慢である
「漢字熟語を動詞として使わない」
×援助を削減すると、条約の締結が遅延する
〇援助を減らすと、条約を結ぶのが遅れる
「修飾語と修飾される言葉は離さない」
×オーストラリアの豊かな牧草で育まれた牛肉(オーストラリアがどちらにかかるのか分からない)
〇豊かな牧草で育てられたオーストラリアの牛肉
〇オーストラリアの豊かな牧草によって、育てられた牛肉
「そして、~がを乱用しない」
×バブルははじけたが、銀行に不良債権が残った(逆説の意味になっていない)
〇バブルははじけ、銀行に不良債権が残った
などなど、その他にも多くの工夫やコツが書かれており、たまに読み返すたびについうなずきながら読んでしまいます。長らく自分のバイブルとしており、毎年交替で赴任する若い先生に学会発表や論文作成を指導する際には、お勧めの一冊として必ず紹介しています。本書は2008年の出版ですが、同じ著者による『「頭がいい人」と言われる文章の書き方』という新書も出されています(KAWADE夢新書、2020年)。もちろん、これを読んだだけですぐに洗練した文章がすらすらと書けるようになる訳ではありませんが、少しそんな気にさせてくれる、価値ある一冊です。
『頭がいい人の文章の書き方(イラスト図解版)』
著者 | 小泉十三と日本語倶楽部 |
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出版 | 河出書房新社 |
定価 | 本体1,200円(税込) |
(令和5年5月号)