須田 生英子
今回お勧めさせていただく本は、全体が五章で構成されています。それぞれの章で異なる主人公が、社会との関係に何らかの悩みを抱えて登場します。ただし、すべての章には共通する部分があります。一つ目は、主人公たちが様々な理由で「羽鳥コミュニティハウス」という公共施設を訪れるようになること。二つ目は、そこで彼らはコミュニティハウスに併設されている「図書室」に足を踏み入れるということ。三つ目は、図書室の中で「小野さゆり」という司書に本を選んでもらうということ。四つ目は、小野さんが本の検索をした際に主人公が目的としている本以外に必ず思いがけない一冊を併せて選ぶこと。そして最後は、小野さんが「付録」と称してハンドメイドの羊毛フェルト作品を一つ主人公に渡すこと。この決まったリズムは、韻を踏むような軽快さを読者に感じさせます。どこかでこのリズム味わったことがあるなあ、と考えていましたら、思い当たりました。絵本を読んでいるときに感じるあのリズム感です。また各々の主人公は、各章で必ず小野さんの第一印象を表現するのですが、その表現の仕方は五人五様で、この辺りも不思議なリズム感を作り出しています。
小野さんから勧められ、主人公たちが思いがけず手にした一冊は、ジャンルも様々なものですが、その内容の描写はどれも緻密で、まるで読み手が実際にその本を手に取っているかのような錯覚を覚えます。また、この本に対する描写からは、著者自身がそれらに対してどれだけ愛情を持っているのかも伝わります。きっと、今回の推薦本を読み終えたら著者おすすめの一冊として次に読んでみたい、と思う先生方もおられるはずです。
物語では、主人公は本だけではなく周囲の人たちとのつながりにも助けられ、今までとは少し違う方向性を見いだしながら前進していきます。抱えているすべての問題が解決するほどの結末ではありませんが、各章とも柔らかな日の光を感じるような読後感です。
また、この本の後半に進んでいくと、各章の登場人物たちが緩やかに関係性を持ち始め、物語全体をまとまりあるものに形作っていきます。ちょうどただの羊毛だった糸たちが徐々にまとまってフェルト人形になっていくような、そんなイメージです。そして全てを読み終え表紙に戻ると「あぁ…」とその装丁に納得することとなります。
最近は電子書籍などで様々な作品を読むことも可能ですが、この本はぜひ単行本を手に取って、その重みも含めて味わっていただければと思います。また、今回は小野さゆりさんの全貌が明かされることなく最終章を終えていますので、私の中では「続編が出版されるのでは」と考え楽しみにしているところです。ちなみにこの作品は『TIME』の「THE 100 MUST-READ BOOKS OF 2023」に選ばれています。
『お探し物は図書室まで』
著者 | 青山美智子 |
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出版社 | ポプラ社 |
発行日 | 2020年11月9日 |
定価 | 本体1,600円+税 |
(令和6年4月号)