八木澤 久美子
長い人生の要所要所で出会う人であったり、物であったり、歌であったり、それぞれあると思いますが、必要な時に必要な人(物)に出会うそれがご縁というのだそうです。この本はまさにご縁そのものです。著者の稲盛和夫氏は京セラ創業者で、第二電電KDDIを立ち上げ、最近では、JAL日本航空をV字復活させた方です。
今から16年前、開業を目指していた頃、はたしてうまくいくのだろうか、こんな小娘が開業したところで患者さんが来院してくれるのだろうか、と不安でいっぱいでした。そんなときに何の気なしにめくった雑誌に紹介されていたのがこの本です。また、通いたいと思っていたビジネスマナースクールの募集も載っていました。ビジネスマナースクールの講師先生はそのとき読んでいたこの本『生き方』の中に書かれていることをそのままおっしゃるので、どうしたことなのか、と伺ってみたところ自分は稲盛氏の主催する経営者の勉強会に所属している、とのことでした。「八木澤さんも入るといいわよ、推薦状を書いてあげるわ」と言ってくださいました。この偶然の出会いがあり、その後稲盛哲学にどっぷりはまりこむこととなったのです。
前置きが長くなりました。この本は稲盛哲学の入門書のような存在です。稲盛氏が歩んできた人生とご自分で勉強してきたこと、経験してきたことから人生の軸のようなことが書かれています。極めて道徳的な内容です。道徳の授業を受けてきたはずだったけれど、すっかり忘れていた私には新鮮な出会いでした。好きなところを以下に示します。1,人生の目的は心を高めること、魂を磨くことにある。2,求めた物だけが手に入ります。このため事をなそうと思ったらまずこうありたい、誰よりも強く身が焦げるほどの熱意を持って願望することが大切です。3,どのように優れた能力も生み出した成果も私に属しながら私の物ではありません。独占することなく社会のために使う。謙虚という美徳の本質はそこにあると考えています。
いかがでしょう。京セラ、KDDIグループ総売上は年3兆円を超えるのだそうですが、やはり物事の神髄まで考えておられる、浅はかな人間の私とは全く違うなと思いました。多くの方にお勧めしたい図書のひとつです。
さて稲盛氏の著書を読み漁った末にいきついたのが『京セラフィロソフィ』です。これは京セラ社員の方に向けて書かれたもので社内でしか手に入らないものでしたが、今は販売されています。私事ですが開業医となり、少なからず従業員がいるわけで彼らの物心両面の幸福を実現していかなければならなくなりました。クリニック存続のためには利益も出していかなければなりません。そのためにはどうするのか、『生き方』が道徳を説いた書であるのに比し、この本は商売・仕事の本質を説いた書といえましょう。1,すばらしい人生をおくるために、2,経営のこころ、3,京セラでは一人一人が経営者、4,日々の仕事を進めるにあたって、の4章から成っています。
特に従業員に倹約していこうと教えるために採算意識を持ってもらうこと、常に創意工夫をしていこうという教えは役立ちます。現在の私にとってはバイブルといっても過言ではありません。困ったことが起きたとき、相談相手になります。解答がすべて載っているのですから。この本もおすすめ図書のひとつです。最後にエピソードをひとつ。2009年に稲盛氏が佐渡に来られた際、佐渡金山をご案内しました。私は佐渡の歴史を勉強していきました。どんな質問がきても答えられるようにと準備していきました。そしてこの質問「ここは誰の経営ですか?」そこにいたどなたも答えられませんでした。いつも頭の中は経営のことでいっぱいだとおっしゃっていましたが、本当にそうなのだ、体の髄から経営者なのだなあと思いました。稲盛氏は2022年にお亡くなりになりましたがこの出会いは感謝以外の何物でもありません。合掌。
『生き方』
著者 | 稲盛和夫 |
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出版 | サンマーク出版 |
発行日 | 2004年8月10日 |
定価 | 1,870円(税込) |
『京セラフィロソフィ』
著者 | 稲盛和夫 |
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出版 | サンマーク出版 |
発行日 | 2014年6月10日 |
定価 | 2,640円(税込) |
(令和6年10月号)