藤澤 正宏
今回の執筆にあたり、妻に勧められて2009年の本屋大賞になった湊かなえ著の『告白』を読んでみた。
最初の教師の告白を読んでいるところで、正直挫折しそうになった。
久しぶりの読書であったため、文字がぎっしりと多すぎるー!
物語は、とある中学校の教室で、担任の女性教師が静かに淡々と話しだすことで始まる…「自分の娘は、このクラスの男子生徒2人に殺された」と言うのだ…。
男子生徒のひとりは、母親の偏った価値観に洗脳するように教育されていた。その後、小さい頃に両親は離婚してしまい、その結果、母親の愛情を求めるがゆえに、曲がった価値観や歪んだ正義を持ったまま成長していくことで、事件を起こしてしまう。
未成年であるがゆえに、加害者は少年法で守られており、責任を追及しきれないと考えた女性教師は、自ら復讐をしていくのである…。
この本の特徴は、それぞれの登場人物が一人称の形で語っていく点だろう。
加害者、保護者、友達、そして被害者である教師…。それぞれの頭の中、心の声が描かれていくのである。
それぞれ、性格も違い、家庭環境も様々であり、複雑な内面を抱えており、本を読み進めていくと、一概に誰が良くて(善)、誰が悪いのか(悪)とは語れないと思った。
最近、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座(あかざ)再来』という映画を観た。ここに登場する鬼たちは、もともと人間でありながら、環境や状況によって「鬼」へと変貌してしまっている。この映画にも出てくる猗窩座という上弦の参である鬼も、生まれながらの悪人ではなく、悲しい過去や境遇により、善悪の境界が揺らぎ、間違った選択ややむを得ない事情により鬼にされた人間である。
ここでは詳細は省くが、愛する人を守りたい、そのために純粋に強くなりたいという、とても人間らしい感情であったところ、愛する人を毒殺され失った悲しみと、絶望などの環境の変化が人間を鬼へと変えてしまっている。
この『告白』にでてくる主人公の男子生徒も、初めから悪かったとは私は思えない。家族との関係や環境の変化、学校や生徒への不満などにより、歪んだ考えを持ってしまったことが事件に至る動機となったのではないかと思われる。
しかし、すべて家庭環境の所為にするのは間違いであり、因果応報、自業自得という言葉があるように、悪いことをすれば決して許されないことも確実にあることを忘れてはいけない。
世の中には様々な家庭環境があり、明るく楽しく生活している家庭がある一方で、複雑な家庭環境により寂しい想いをしている子供たちは確実に存在しているのである。
親の愛情の偏りにより、子供たちは心を蝕んでいないのか? 家庭という場所が、子供たちにとって本当に安全で愛のある場所になっているのだろうか? など、一人の親として色々と考えさせられた本であり、私にとっても教育や家庭の在り方を再認識させられるとても良い機会となった。
最後に、この本を読み終えた後は、数日は何とも言えない重たい感情が残ることは覚悟してほしい。小説を読む時間が無い方は、2010年公開の映画を観ることもお勧めしたい。
(令和7年10月号)

『告白』
| 出版社 | 株式会社 双葉社 |
|---|---|
| 出版日 | 2010年4月11日(第1刷発行) |
| 定価 | 本体619円+税 |