笹川 富士雄
先日、家内のつけていたテレビを何気なく見たら、先﨑彰容と落合陽一の対論「戦後80年特別企画 国家の変容と日本人」をやっていました。切り口が面白くてつい最後まで見てしまいました。ゆっくりとわかりやすい話し方の先﨑に対し、落合の話はテンポが速く感じ、中途半端な理解しかできませんでしたがどこか心に残りました。
私の書棚には積読本が600冊ほどあります。それくらいあると買ったことも忘れて2冊目、3冊目と買ったものもあります。今回の「マイライブラリィ」のために何か読もうと1週間ほど書棚をあさっていて『忘れる読書』に目が行きました。著者を見たところ「落合陽一」とあり、発行日2022年11月、3年間書棚で眠っていましたが、落合陽一という人を知るためにも、今が「読む旬」と決めました。
刺激的な題名に惹かれて買ったのですが、題名だけでなく内容もかなり刺激的でした。本書はいわゆるハウツー本ではありません。とても深い内容が書かれていて、1回読んで終わる本ではありません。少しずつ教養を積み重ねつつ、ステップアップするたびに読み返す本です。
著者の落合陽一は、筑波大学准教授、メディアアーティスト、研究センター長、ベンチャー企業のCEO、テレビのコメンテーター、そして著述家とたくさんの顔を持っています。
父親はジャーナリスト、小説家である落合信彦です。「ニーチェを読んでいない奴とはしゃべれない」と言うような父親の影響を著者は強く受けています。
著者が特に繰り返し読んでいて、ゆるぎない精神的土台としていつも著者を支えている本が2冊あります。哲学の土台としてのニーチェ『ツァラトゥストラはこう言った』、そしてアートの土台としての世阿弥『風姿花伝』(人類の一つの到達点とまで絶賛しています)です。著者の言葉が薄っぺらでない理由がここにあると感じます。
本書は大切なところがゴシックになっていて、(書評を書くときなど)読み返すときや斜め読みするときには大変便利です。他の本の引用の文章も理解を深めてくれます。
第1章では「新しい時代の読書法」=教養の身に着け方について述べています。
「(新しい時代の)教養」について要約すると、教養とは、物事を「抽象化する思考」を鍛えて「気づく能力=課題を見つける能力」を磨くことである。気づくとは、点と点をつなげる、つまり点在する知識をつないで自分のものにする、自分のストーリーとして練り上げることであり、これを身に着けるには読書が適している。抽象化するには「言語化(これも大切なキーワード)」することが大切であり、本は自分に代わって上手に言語化してくれる。本はまた、情報を圧縮した「言語の器」であると述べています。
第1章は抽象的な話が多かったですが、第2章ではより具体的な本の読み方について、「忘れるために、本を読む」。
私の心に残ったところをいくつかあげますと、専門書でも漫画でも「事の本質」をつかまえながら読む癖をつける。何かを読んで知識を得た時、適度に忘れていくことが大切で、読後に自分の中に残った知識や考えをざっくりと頭に入れ「フックのかかった状態」にしておくこと=思考のフックをかけることが大切。これが本の題名になっています。
第3章では「本で思考のフレームを磨け」。
特に古典を読むためには、本の出版年、執筆された年を確認して「ビジョン」「ミッション」「課題」「方法」の4点セットで読み分ける。
第4章では「読み比べ」について。
俯瞰の目で「ストーリーテリング」と「未来に対する仮説を立てる」。多分著者の本当に伝えたいことはこの章と次の章だろうと思います(第4章の内容については割愛します)。
第5章では「日本を我々を更新(アップデート)する読書」について述べられています。私は特にこの章を面白く読みました。
今の日本は明治時代からの制度の疲労が蓄積しており、更新(アップデート)が是非必要である。今の日本を知るには「近代のおさらい」と「空気(空気を読む、忖度するというときの空気)の研究」の2つのテーマに絞られる。近代のおさらいにうってつけなのが猪瀬直樹『ミカドの肖像』、空気については戸部良一ほか『失敗の本質』、鈴木大拙『日本的霊性』、上記『ミカドの肖像』を上げています。このように本書はいくつかの課題に対して読書量の多い著者が吟味した本がそれぞれ数冊推薦されており、これらを読むことでさらにその理解を深めることができます。
第6章では「感性を磨く読書」、第7章では「読書で自分の熱を探せ」。
いずれも落合陽一がいかにして感性、熱(=興味)を形作っていったかを知ることができ、今の活動を理解することができます。
なぜ今、本を読むのか。コロナ禍の後の新しい日常を生きるには「新しい時代の教養」を身に着ける必要があり、「本」というある程度体系化されたパッケージがとても適しているとの「序」から始まり、わずか237ページの新書ですがその内容の深さはかなりのものです。コンピューター用語などのカタカナ語が多いですが、1つの言葉の持つ意味・内容(=パッケージ)を推薦された本で補って深めていくと、より深い楽しみを得ることができる本です。是非一読をお勧めします。
『忘れる読書』(PHP新書)
| 著者 | 落合陽一 |
|---|---|
| 発行所 | 株式会社PHP研究所 |
| 発行日 | 2022年11月9日 |
| 価格 | 本体1,000円(税別) |
(令和8年1月号)