阿部 尚平
作者は40代現役の消化器内科医。主人公も京都市内の48床の小さな病院の消化器内科医。
内容はフィクションであり、フィクションでない様な、現実味のあるお話である。
膵癌末期の在宅老人。「さすがにもうがんばれそうもありません」、「がんばらなくて良いのです。ただ、あまり急いでもいけません」。食事を摂れなくなった患者にどこまで点滴をするのか。癌末期の患者にどんな言葉をかければ良いのか。認知症の患者に癌が見つかったとして、どう対応すべきなのか。そんな事はどの教科書にも書いていない。
人の幸せは何処から来るのか? 病気が治るのは幸せだろう。では病気が治らない人はみんな不幸なままなのか? そういう人達が少しでも幸せに過す事はできないのだろうか?
更に、主人公が自身の妹を若くして亡くした時の事を振り返り、後輩医師と小道での立ち話では、「医療の力なんて本当にわずかなものだ。人間はとても儚い生き物で、世の中にはどうにもならない事がいっぱいある。それでもできる事はあるんだよ」。どこかで、自転車のチリンチリンという音がして、遠ざかって行った。
こんな感じの作品です。彼の作品は、今迄もどれを取っても、山、水、風、音、光、花などの自然の描写がとにかく美しい。
小さな哲学の種が、あたかも宝石の原石の様な形であちこちにちりばめられている。お勧めの本です。
又、最新作に『エピクロスの処方箋』があります。これもオススメ!

『スピノザの診察室』
| 著者 | 夏川 草介 |
|---|---|
| 出版 | 文藝春秋 |
| 発行日 | 2023年10月 |
| 定価 | 本体1,700円+税 |

『エピクロスの処方箋』
| 著者 | 夏川 草介 |
|---|---|
| 出版 | 水鈴社 |
| 発行日 | 2025年10月 |
| 定価 | 本体1,800円+税 |
(令和8年2月号)