新潟市医師会 勤務医委員会委員
新潟市民病院 消化器外科 佐藤 大輔
学生時代に喫茶店でバイトをしたことをきっかけにコーヒーを淹れることが好きになり、平日は始業前、休日は食後にハンドドリップでコーヒーを飲むのが日課となっています。新潟市医師会の諸先生方にもコーヒーを飲まれる方も多いのではないかと思います。普段はただ美味しいと思って飲んでいるだけですが、せっかくこのような機会を頂いたので、コーヒーについて思いを巡らせて書かせていただきました。
コーヒーの起源については13世紀にイスラム教徒シーク・オマールが飲み物としてのコーヒーを発見した説(シーク・オマール伝説)や9世紀のエチオピアでヤギ飼いの少年カルディが発見した説(カルディ伝説:同名のチェーン店では伝説をイメージしたイラストが店内の壁や紙袋に描かれています)などと諸説あるようです。某チェーン店のイラストにそんな意味があったなんてはじめて知りました。10世紀には野生のコーヒーの種子の煮出汁(パンカム)を患者に飲ませ、消化や強心、利尿に効果があるとの記録が残されています。日本には江戸時代、鎖国中に長崎のオランダ商館で初めて伝えられたと言われており、1888年に東京上野に可否茶館が本格的なコーヒー専門店として開業して以降次々とコーヒー専門店がオープンして、広く人々に愛されるようになっていたとのことです。
コーヒーの日本語表記である「珈琲」と当てはめたのは幕末の藩医で蘭学者、宇田川榕菴(うだがわようあん)と言われています。その由来はコーヒーの木の枝に実った赤い実の様子が、「かんざし」に似ていることから、かんざしを表す「珈」、かんざしの玉をつなぐ紐を表す「琲」を組み合わせて「珈琲」という漢字が誕生しました。この宇田川榕菴は他にも水素、酸素、圧力、温度、分析などの今でも使用されている造語を作り出しています。
コーヒーの効能効果については世界各国を始め日本からも様々な報告があり、ご存じの方も多いかと思います。全死亡率や心血管疾患のリスクの低下、肝癌、(BRACA1、2変異を有する女性の)乳癌、結腸癌のリスクの低下(特に女性で)、コーヒーに含まれるポリフェノール(クロロゲン酸等)が抗酸化効果、脂肪燃焼作用や美肌効果(光老化から守る)など多岐にわたります。またクロロゲン酸の脂肪燃焼作用は特定保健用食品として応用されています。
色々と書いてきましたが、毎日壮大な歴史や効能効果を意識してコーヒーを淹れて飲んでいるわけではありません。コーヒーを淹れるといっても講座を受講した友人から基礎を教わりましたが、自分の好きなように我流で淹れています。最近は浅煎り(煎りが浅いほうがクロロゲン酸などのポリフェノールが多く含まれている)が流行りなのですが、中から深煎りの豆を使って、中挽きから粗挽きで少し蒸らしてからお湯を注いで抽出しています。蒸らす理由は炭酸ガスを放出させるためらしく、たしかに蒸らすとポコポコとガスが出てきます。理由は知りませんでしたが、このガスが出てくる様子がコーヒーを淹れている感があり、少し気分をアゲてくれます。豆もずっと同じものでは飽きてしまうので、傾向はあるにせよ一つにこだわらずに試しています。種類によって粒の大きさが違うし、煎りの深さで色や照り、挽いたときの硬さも違ってきます(煎りが浅いと固くなるので、一杯のコーヒーを飲むために腕がヘトヘトになることも…)。最近は自家焙煎しているお店で豆を購入していますが、新潟市内にも自家焙煎の豆を販売しているお店が結構あります。馴染みの店はありますが、お店の幅を広げたいとも思っています。
コーヒーが美味しいと感じる満足感、淹れている間に周囲の方々とのプチトークが自分にとってのコーヒーの効能で、このコーヒー時間は非常に貴重な時間となっています。コーヒーは嗜好品なので、各々自分で好きなように飲むことがその人にとっての一番であり、今回ご紹介させていただいたコーヒーに関する豆知識が先生方のコーヒー時間のちょい足しになれば嬉しい限りです。