新潟県立がんセンター新潟病院 放射線診断科 古泉 直也
2016年にGeoffrey E. Hinton先生の「5年以内にDeep Learningの方が放射線科医よりも優れるようになるので、放射線科医の教育は止めるべきだ」という話によって放射線科診断医は要らなくなると言われて、放射線科を志望する医師が減っていましたが、最近は元に戻ってきております。ただし、放射線診断医は要らなくなってはいないようですが、前述の話の後で、医療用人工知能によって放射線診断医は逆に楽になるとも言われていました。画像は質・量ともに増え続けていますが人工知能が手伝ってくれることもなく、さっぱり楽にはなっていません。
2022年度(令和4年度)診療報酬改定で画像診断管理加算3の施設基準に新たに「関係学会の定める指針に基づいて、人工知能関連技術が活用された画像診断補助ソフトウェアの適切な安全管理を行っていること。」が要件として追加されました。この施設基準の変更に伴い、人工知能関連技術が活用された画像診断補助ソフトウェアの認証を公益社団法人日本医学放射線学会が行っています。
また、画像診断補助ソフトウェアは医師がどのように使用するかの利用形態に応じて「Second Reader(セカンドリーダー型)」「Concurrent Reader(同時リーダー型)」「First Reader(ファーストリーダー型)」に分かれます。現在承認を受けている人工知能は、ほとんどセカンドリーダー型であり、医師はまず画像診断補助ソフトウェアなしで読影し、次に画像診断補助ソフトウェアありで読影をします。一方で、最も業務効率化の効果が高いファーストリーダー型は、画像診断補助ソフトウェア単体が医師よりも先に読影し、病変候補を特定した後に、医師は画像診断補助ソフトウェアが提示した病変候補のみを読影するというスクリーニングに近い利用形態です。しかし、ファーストリーダー型は、薬事承認の難易度もあがり、実現が難しいと言われております。
どの型でも臨床的に使う場合は、日常診療の大量のデータを選択するのかしないのか、またその手間の問題もありますが、大量に画像を送って診断の結果が返ってくるまでには時間がかかります。ファーストリーダー型はデータの送信と結果が出てくる時間さえ問題にならなければ多少は楽ですが、セカンドや同時型は余計な仕事が増えて逆に手間がかかり、楽どころか一層忙しくなります。そんなものは加算が取れても放射線診断医には迷惑で、病院に入れてほしくはないですし、放射線科医師の人的コストが上回る恐れもあります。
以前、医療用人工知能研究の大御所の先生が医療用人工知能開発者達に“医療に携わるものとしての心”を持って欲しい、というようなことを新潟での講演の最後で言っておられました。ただし、“医療に携わるものとしての心”とは責任感であるとすれば、この国が自らへの批判を許さない国にならない限り、自動運転にせよ医療にせよ事故に対する責任が必要な分野では、責任を負うものが必ず置かれるか結果として責任を負わされる者が存在することになります。医療ではそれは医療関係者であり、最終的には医師がそれを負う職業なので、人工知能やその開発者が責任を負うべきとは思えません。ファーストリーダー型の実現が難しいのは、医師は自分の知らないところで勝手に行われたことに対してサインしただけで責任追及されてはたまらないのと、開発者にとってはそれを導入した医療側の責任でしょということなのだと勝手に思っています。
他の使い方はどうかというと、Chat GPTを手持ちのiPadやPCに入れて試してみました。(図)
人工知能は、ある解説を専門ではない人に対してなんとなくの文章を書くにはいいのかもしれません。今回の医療用人工知能と放射線科診断医の話もネットで検索するといいことばかり出てきて、こんなもんかと思いました。放射線診断医より要らなくなる職業はいろいろありそうですが、ネット上の検索結果のような文章を書く職業もそうなのかもしれません。放射線診断科はPCを使えない者がいち早く淘汰された科なので、人工知能がどういう形で病院の仕事に入ってくるのかにせよ、使いこなせるものだけが生き残るだけでしょうね。
Chat GPTはバージョンにもよるのでしょうが学習材料が最新というわけではないので、ごく最近のことはまだ向かなそうです。ちなみに医療用の人工知能でできあがった結果が承認されて出回るものなので、導入すると学習し続けてくれるわけではありませんので悪しからず。
追記 この文章もChat GPTに校正してもらおうとしたのですが結果が気に入らなかったので私の原文のままです。もっとも、この文章もネットからの寄せ集め+αでしかありません。Chat GPTも使う私もまだまだのようです。
(令和6年1月号)