新潟市医師会勤務医委員会委員
新潟臨港病院 内科 窪田 智之
国際疾病分類(ICD)とは世界保健機関(WHO)が作成する国際的に統一した基準で定められた死因及び疾病の分類です。我が国では、統計法に基づく統計基準として「疾病、傷害及び死因の統計分類」を告示し、公的統計(人口動態統計等)において適用しています。また、医学的分類として医療機関における診療録の管理等においても広く活用されています。
ICD-10からICD-11への改訂は、約30年ぶりとなります。2019年5月世界保健総会で採択され、現在、日本でも分類の翻訳など適用へ向けた最終準備が進められています。
ICD-11には、最新の医学的知見が反映されています。新設の章で、個人的に最も気になっているのは初めて伝統医学が取り入れられたことです。漢方医学の概念に基づく疾病や「証」をコーディングできるようになっています。また「免疫系の疾患」(4章)は独立して設けられ、免疫不全、臓器非特異的全身性疾患(全身性エリテマトーデス等)、自己炎症性疾患(ベーチェット病等)、好中球減少症、サルコイドーシス、胸腺の疾患などが含まれます。アレルギーも、生体における反応をよりよく理解できるとの観点からここに分類されています。複数の章に分散していた不眠症、過眠症、睡眠関連呼吸障害などは、新設の「睡眠・覚醒障害」(7章)にまとめられました。「性保健健康関連の病態」(17章)には、性機能不全や性別不合(トランスジェンダー)が分類され、これらは精神障害として扱われなくなっており、時代を反映したものとなっています。
新設の章以外でも、脳卒中は循環器系の疾患ではなく神経系の疾患としての位置づけに変更されており、「内分泌、栄養又は代謝疾患」(5章)では、過栄養や低栄養に関する概念が最新知見を反映して更新されています。「消化器系の疾患」(13章)では実臨床の視点から詳細化が進み、好酸球性胃炎、diversion colitis(空置腸管に生じる活動性慢性腸炎)などが追加されたほか、胃食道逆流症(GERD)など重要な消化器疾患には独自のカテゴリーが割り当てられました。
診療情報は単に死亡・疾病統計の国際比較を行うためのツールとしてだけでなく、臨床現場や研究など様々な場面での使用を想定し、より多様な病態を表現できるようコード体系が整備され、どんどん役割を拡大しています。そして、安心・安全で質の高い医療の提供を実現するために必要不可欠なものとなっています。技術革新がますます進展する時代の中で、価値ある有益な情報を生み出すために正確なデータ収集をすることが求められますし、その診療情報の管理と運用を担うのが診療情報管理士(HIM)です。1年間のe-learningと認定試験を経て、この度私は資格取得することができ、新人HIMとして、鋭意勉強中です。
ぜひ、各病院におられるHIMにお声がけいただき、交流を深めていただければ幸いです。
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(令和6年7月号)