東ニイガタ友愛クリニック 瀬尾 弘志
これから来る冬を前に気分が落ち込む秋ですが、とくに11月以降はその傾向が強くなっていくといわれ、それに伴い悪化する疾患は少なくありません。その中心にあるものは不安感であり、不安感を直接抑制する主体はセロトニン(ノルアドレナリンやドーパミンの作用を抑制する)といわれる脳内ホルモン(神経伝達物質)が挙げられ、日本人はセロトニンの最も不足しやすい人種であることが知られています。そのメカニズムは遺伝子上でセロトニントランスポーターの減少が多いためと言われます。とくに北日本の日本海側の地域に住む方がセロトニントランスポーター遺伝子SS型を有する割合が多く、神経終末におけるセロトニン濃度が低くなりやすいことから、不安を感じやすいと説明されています。日本人が不安遺伝子を有することが多い理由は諸説あるでしょうが、古来より自然災害や地域紛争が多かったことと関連付ける説が有力です。つまり、同じ不安を共有する日本人同士が集団となって災厄を乗り越えてきた記憶が遺伝子上に残り、現代の日本人の気質を作り上げたのかもしれません。
ではなぜ、秋冬に不安遺伝子(セロトニントランスポーター遺伝子SS型)により、セロトニンの減少がおこるのでしょう?その説明には日光と松果体との関連で説明されています。日光は松果体を介してセロトニンを基質としたメラトニン生成を抑制しますが、日光の少ない冬季間はこのメラトニンを主体とした概日リズムが崩れ、不眠、気分変容、不安感の増強、うつへ進展するとのメカニズムが有力です。要は、日照時間が短くなるにつれ、不安感を感じるようになることの蓋然性がなんとなく理解できるのではないでしょうか。不安感が慢性的に続くことで、不眠、抑うつ状態(季節性うつ)、認知機能の低下、高齢者における事故、外傷が増え始め、とくに夕方以降の時間帯にはその傾向が顕著になるようです。
では、どのように対処するとよいのでしょうか?まずは、不安感が病気ではなく、遺伝子上の問題であることを理解すること、ついで、美白の時代に逆行するようですが、概日リズムを崩さないよういたずらに日光を避けないことです。不安感は古代の日本人のつらい記憶が遺伝子上に記憶され、現代人にも影響していることにほかなりません。しかし、いたずらに怖がることなく、古代の日本人には必要な不安であったことを理解し、現代人として対処していきましょう。
(2022.10.28)