東ニイガタ 友愛クリニック
瀬尾 弘志
閃輝暗点とは片頭痛の前兆として有名な症状で、「キラキラした光」「水玉のような模様」「水中を眺めているような見え方」など短時間で消失する視覚症状をいいます。この兆候にひきつづき30分前後で頭痛が出現することがあり、この頭痛は古典的片頭痛と言われています。脳神経外科の外来をしていると、片頭痛のない閃輝暗点のみの患者さんがときに来院してきます。片頭痛のある閃輝暗点の方と比較し片頭痛のない閃輝暗点は50歳以上の年齢の高い方に多い印象です。教科書的には日常生活上に支障はなく、眼科的な疾患も否定されれば、経過観察で良いとされていますが、患者さんにとってはかなりつらく、運転中に出現すると視野が狭くなり、閃輝暗点消失後も30分程度視力が低下した状態となり交通事故の危険性を心配されている方も見られます。そこで私見ではありますが、当院での対処の仕方をご紹介させていただきます。閃輝暗点は片頭痛との関連が強いため、その発生メカニズムの一つは脳内ホルモンの一つセロトニンと考えられます。セロトニンはある一定の条件がそろうと脳血管の過度の収縮を引き起こし、脳の虚血症状として閃輝暗点が発生すると考えられます。そこで、当院では頭痛を伴わない閃輝暗点の患者さんに片頭痛の予防効果が高い薬剤を試用し、効果があれば3か月程度の継続投与を行っています。もともと、このお薬はてんかんやうつ病治療に用いられるお薬ですが、閃輝暗点の発生を減少させてくれることがあります。しかし、これで効果がない場合には精査(頭部MRIおよび頸動脈エコー)を行い、眼球を栄養する血管(眼動脈)と視力にかかわる脳(後頭葉)を栄養する血管(後大脳動脈)の状態を確認しています。特に高齢者の場合や生活習慣病の基礎を有する場合には動脈硬化性変化が強くみられ、脳血管狭窄や閉塞をきたしている場合も想定されるためです。この様な場合には、未治療の生活習慣病があればまずはその改善を行い、血液をサラサラにするお薬(血小板凝集能抑制剤)を試用し、症状の改善があるかを確認しています。このような場合は、閃輝暗点が脳梗塞の高リスクであることを示唆するため、投薬を長期にわたり継続することとなります。当院での経験はまだ少なく、統計学的な治療の有効性を論ずることはできませんが、閃輝暗点で苦しまれておられる患者さんの症状が軽快することが少なからずありますので、ご紹介をさせていただきました。
(2023.10.25)