信楽園病院 脳神経外科
北澤 圭子
病院で当直をしていると、午前中から麻痺などの症状があったにも関わらず、夕方以降に救急外来を受診される患者さんがいらっしゃいます。受診が遅くなった理由をお聞きすると「治るかなと思って様子を見ました」「症状が軽いから、大丈夫と思って」と多くの方が答えます。患者さんは自分自身の症状を「たいしたことはない」と思っているのですが、夕方帰宅した家族から見ると明らかに異常であり、驚いた家族が患者さんを救急外来に連れてきたということのようなのです。このように危険な状態や異常に際して「自分は大丈夫」と物事を軽く捉えてしまうことは「正常バイアス」と言い、地震や洪水などの災害時にも見られる心理現象として知られています。この「正常バイアス」が脳卒中を発症した患者さんにも生じているのではないかと思います。
また「自分は脳卒中ではない」と思ってしまう他の原因として、脳卒中に対する一般的なイメージも影響していると思います。脳卒中は「くも膜下出血」、「脳出血」、「脳梗塞」の3つの脳血管疾患の総称ですが、この内「くも膜下出血」では激しい頭痛が特徴であるため「脳卒中=頭痛」というイメージがあったり、重症の脳卒中では意識障害を生じるため、「脳卒中=倒れる」というイメージを持っている方も多いです。しかし実際には、脳出血や脳梗塞では頭痛を伴わないことが多く、脳出血、脳梗塞では損傷された脳の部位によって症状が決まるため、重度の意識障害を伴う場合から軽度の麻痺や言語障害のみの場合まで症状は様々です。
誰でも簡単に脳卒中を疑うことができるよう、「FAST」というチェック方法をお伝えしたいと思います。
「F」=Face(顔の麻痺)、鏡を見て顔が歪んでいませんか?
「A」=Arm(片腕に力が入らない)、両手を左右差なくあげていられますか?
「S」=Speech(言葉の障害)、いつもと同じように喋ることができますか?
これら3つの症状のうち、1つでも症状があれば脳卒中の可能性があります。「T」=Time(発症時間)を確認し、すぐに119番しましょう!
(2024.10.25)