
おおるり脳外科クリニック
北澤 圭子
「最近歩き方がおかしい」「急に物忘れが進んだ」「以前より元気がない」。高齢者ではしばしば聞かれる変化ですが、その原因の一つとして知っておきたい病気が「慢性硬膜下血腫」です。
慢性硬膜下血腫は、軽い頭部打撲などをきっかけとして、数週間から数か月を経て症状が現れることが多い病気です。高齢者に多く、血液を固まりにくくする薬(抗血栓薬)の服用や、多量の飲酒なども発症に関連します。
症状として頭痛や手足の麻痺がよく知られていますが、高齢者では「転びやすくなった」「ぼんやりして元気がない」といった、一見すると脳の病気とは思いにくい症状で現れることがあり、「年齢のせい」「認知症が進んだ」「体力が落ちた」と思われることもあります。
慢性硬膜下血腫は、頭をぶつけたときに出血しそのまま徐々に溜まっていく病気ではありません。血腫の周囲に「被膜」と呼ばれる組織ができて、そこで炎症や異常なもろい血管を生じて、微小な出血や血液成分の漏出が繰り返されることで、血腫が徐々に大きくなると考えられています。
慢性硬膜下血腫はCTで診断可能で、症状を伴う場合には、頭蓋骨に小さな穴を開けて血腫を排出する「穿頭血腫ドレナージ術」を行います。多くの場合、症状は手術後に改善しますが、治療後に血腫が再び増大して再手術が必要になることもあります。
近年、「中硬膜動脈塞栓術」という治療も注目されています。血腫の被膜に血液を送る中硬膜動脈にカテーテルを入れて、塞栓物質を詰めて閉塞させることで、血腫が増大・再発する仕組みそのものを抑えようという治療です。
高齢者の「なんとなくおかしい」は、加齢だけでないこともあります。数週間から数か月の間に歩行状態や認知機能などが変化した場合には、慢性硬膜下血腫のように治療可能な病気が隠れていることがあります。気になる変化があれば、医療機関を受診してください。
(令和8年10月号)
(2026.10.28)