笹出線 近江眼科 近江皮膚科 山本 洋子
アトピー性皮膚炎の治療の基本となる薬剤はステロイド外用薬(ぬり薬)です。1952年に開発され、炎症を抑える外用薬として使用されてきました。ステロイド外用薬の強さには5段階あります。部位と症状により適切な強さのものを十分な量、すりこまずに優しくぬることが重要です。人差し指の先端から第一関節までチューブから押し出された量(約0.5g)が、手のひら2枚分の面積の皮膚にぬる量の目安となります。実際にぬるとかなり「べたべた」だと感じる量です。
顔と首はステロイド外用薬による皮膚萎縮、毛細血管拡張などの副作用が出やすいです。治療が困難となる場合がありますが、1999年にタクロリムス軟膏が登場して、顔と首の皮膚炎のコントロールが可能となりました。タクロリムス軟膏はやや刺激が強いですが、ステロイド外用により皮膚の炎症を一旦改善させてからであれば使用可能となることが多いです。2020年6月にはアトピー性皮膚炎の新しい外用薬としてデルゴシチニブ軟膏が発売されました。デルゴシチニブ軟膏は皮膚萎縮や毛細血管拡張の副作用がないうえ、刺激も少ないので、タクロリムス軟膏を外用できない人にも使用できる可能性があります。眼の周囲へのステロイド外用は緑内障を合併することがあり注意が必要ですが、デルゴシチニブ軟膏は眼の中に入らないように注意して眼の周囲への使用も可能です。
アトピー性皮膚炎では皮膚のバリア機能が低下しているので、保湿外用薬を併用して皮膚のバリア機能を補うことも大切です。ひっかくと、バリア機能が壊れて外からの刺激物質は皮膚に入りやすくなり、かゆみを増す知覚神経は増えたり伸びたりします。そうすると、ますますかゆくなるという悪循環に陥るので、ひっかかないようにすることも重要です。かゆみを軽減するために抗ヒスタミン薬の内服を必要に応じて併用します。
アトピー性皮膚炎では、炎症が軽快して一見正常に見える皮膚でも再び炎症を起こしやすい状態にあります。悪化を繰り返す患者さんでは皮膚炎が十分に改善した後でも、保湿外用薬によるスキンケアに加えて、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏を週に2回程度定期的にぬることが推奨されています。
症状が強い患者さんに対しては、2008年から免疫抑制剤のシクロスポリンの内服、2018年から抗体製剤のデュピルマブの皮下注射も使用できるようになりました。重症のアトピー性皮膚炎でも症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障のない状態に到達し維持できることをめざします。
(2020.12.24)