済生会新潟病院 産婦人科 芹川 武大
本年2月14日に国内で新型コロナウイルスワクチンが特例承認され、16歳以上(5月31日からは12歳以上)の国民全員がワクチン接種を受けるよう、努力義務が課されました。このワクチンは、従来から妊娠中でも使用されていたインフルエンザワクチンとは異なり、新しい作用機序を持つものです。添付文書には、妊婦に対し「有益な場合接種する」と記載されています。この表現は、ほとんどのお薬の添付文書にも記載されており、妊婦への接種は禁止されていません。
しかしながら、当初妊婦や胎児への安全性について不明なことが多く、国内では妊婦に対し、積極的には接種を呼びかけませんでした。一方、妊婦の中でも、感染リスクが高い医療従事者や、重症化リスクがある肥満や糖尿病などを合併している場合には、ワクチン接種を「考慮する」としましたが、当時ワクチン接種が進んでいたイスラエル以外のほとんどの国で妊婦を接種対象外としており、国内で優先接種の対象となった妊娠中の医療従事者の多くが、ワクチン接種を回避することになりました。
その後、安全性に問題が無いことがわかり、欧米でも妊婦に対し接種を呼びかけ始めたことから、現在では国内でも関連学会が妊婦に対し、人口当たりの感染者が多い地域、医療従事者や保健介護従事者、および肥満や糖尿病など基礎疾患を合併している場合は、ワクチン接種を「積極的に考慮する」よう呼びかけています。
最近の研究で、コロナウイルスに感染した妊婦の早産率上昇や新生児に人工呼吸管理を必要とした症例が増加したとする報告があり、母児ともに重症化する可能性があることがわかってきましたので、妊婦がコロナウイルス感染を予防することは、母児双方にとってとても重要なことです。
妊婦さん一人一人の背景が異なりますので、まずはかかりつけの産婦人科主治医と十分にご相談ください。また接種を受ける際は、器官形成期(妊娠12週まで)を避け、接種前後に産婦人科医により胎児の状態を確認することが推奨されています。なお妊娠を希望されている女性は、他の予防接種と同様、妊娠前に接種を受けることが大切なことは言うまでもありません。
(2021.07.28)