医療法人社団 恵和会
ミアグレースクリニック新潟
茅原 誠
不妊症の原因の約半数に男性因子が関与していると言われています。
男性不妊症に関与するのは主に「精液性状」となりますが、その問題点も多岐にわたります。
精子濃度が基準値以下であれば「乏精子症」、精子の運動率の低下を認めれば「精子無力症」、精子の奇形率が高い場合「奇形精子症」と言います。これらの異常が複合している事もあります。
精液性状に異常が認められた場合、まず精巣の触診を行い大きさや位置を確認します。さらにエコー検査を併用して精巣腫瘍や精索静脈瘤の有無を確認します。精索静脈瘤の存在は精液性状を不良にすることがありますが、手術療法で改善を期待できることがあります。
特に無精子症の場合には、基礎ホルモン値(精子を生成するためのホルモンバランス)のチェックや染色体検査を行います。ホルモン検査で卵胞刺激ホルモン(FSH)の上昇を認めれば、造精機能の障害が疑われ「非閉塞性無精子症」の可能性が高くなります。染色体検査で47XXYや46XX男性などの診断となった場合には、染色体異常が無精子症の原因として考えられます。
非閉塞性無精子症の場合、顕微鏡下精巣内精子採取術(Micro-TESE)を行うことで精子の回収を期待できることがあります。ただ、Y染色体微小欠失解析でY染色体長腕上のAZFa、AZFb、AZFb+c領域に欠失がある場合、精子回収の可能性は極めて低く、Micro-TESEをもってしても治療に限界があることも事実です。
非閉塞性無精子症でMicro-TESEを実施しても精子を回収できなかったカップルは、非配偶者間人工授精(AID)や養子縁組、里子、子供を諦める人生などの選択肢が改めて提示されます。この場合、医療チームは今後の患者の人生にさらに深く寄り添う必要性が出てきます。
以上の点から、男性不妊症の領域は、精液性状の正確な評価、精子生成のホルモンバランスの理解、遺伝学的知識に加え、深いカウンセリング知識も要する非常に奥深い領域と言えます。
(2024.07.29)