ふるしまクリニック
古嶋 博司
人間にも雑音が生じることをご存知ですか?おしゃべりな人、という意味ではありません。実は、私たちの心臓でも「雑音」が生じることがあります。これは「心雑音」と呼ばれ、弁膜症という病気で見られます。
心臓には右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋があり、それぞれの出口には逆流防止のための“弁”があります。弁膜症とはその“弁”の不調により生じる狭窄や逆流で心臓に負担がかかる状態を言います。狭いところ(狭窄部)を血液が通過するときや、逆流する血流によって雑音が生じるのです。
弁膜症が進行すると、動悸・息切れ・胸の痛み・むくみ、などの症状が現れます。多くの場合、これらの症状はゆっくり進行するため気づきにくく、「歳のせいかな?」と思ってしまう人も少なくありません。無症状でも心臓には負担がかかっており、放置すると進行する可能性があります。健診で「心雑音がある」と指摘されて初めて気付く方も多く、診察時にしっかりと確認してもらうことが重要です。
かつてはリウマチ熱が弁膜症の主な原因でしたが、現在は抗生物質の普及により、リウマチ熱による弁膜症は大幅に減少しています。一方で、現在増加しているのが、加齢に伴う弁の変性や石灰化による大動脈弁狭窄症です。これは心臓の出口(大動脈弁)が硬くなり、血液がスムーズに流れなくなる病気で、高齢者に多くみられます。
弁膜症が進行し、心臓への負担が大きくなると治療が必要となります。治療には、悪くなった弁の代わりに、人工弁や生体弁(ブタの弁や牛の心膜)に取り替える弁置換術があります。また、大動脈弁狭窄症では、開胸を伴う置換術だけではなく、カテーテルを使った侵襲の少ない治療“TAVI”(経カテーテル大動脈弁植え込み術)も普及し、高齢者や体力のない患者さんにも適用できるようになっています。
弁膜症は自覚症状が出にくく、気づいた時には進行していることが少なくありません。そのため、家族が異変に気づくことも大切です。「最近、息切れしやすい」「疲れやすい」「動悸を訴えることが増えた」と感じたら、早めに専門医の診察を受けることをお勧めします。また、健診で心雑音を指摘されたら放置せず、精密検査を受けることが重要です。ただの「雑音」と思わず、心臓の声に耳を傾けましょう。
(2025.05.27)