紫竹山つちだ眼科
土田 宏嗣
子供の近視人口は増加しており、更により強い度数の近視(強度近視)が増加傾向となっています。近視が強度になると眼球が長く引き伸ばされ(眼軸の過伸展)、網膜などの内部構造に病的な変化が起き、網脈絡膜萎縮、黄斑変性症、網膜剥離、緑内障などの眼疾患のリスクが高まります。このために小児期・学童期からの積極的な近視進行予防の重要性がいわれています。
シンガポール、台湾、中国などでは国家規模で近視予防対策が実施され、近視進行の危険因子やその予防策に対する効果も明らかになってきています。
環境危険因子としては、「教育」と「野外活動」が特に近視と強い関連があると指摘されています。「教育」とは、つまり読書・勉強などの近くを見る作業のことです。30cm以下の近業や2時間を超える長時間の近業、タブレットの使用などが近視発症のリスクとなっているという研究データが示されています。また「野外活動」が多いほど近視の発症・進行が抑制出来るという研究データが多数出ていますが、なぜ抑制出来るのかは有力な仮説はあるものの結論は出ていません。近視進行抑制に必要な明るさは、1000~3000Lux程度の照度であることが研究で示唆されています。室内は概ね1000Lux以下で、明るいコンビニで1500~2000Lux、普通のオフィスは750Lux、野外は日陰でも5000Lux以上あります。
台湾では毎日120分の野外活動、30分の近業に10分の休憩(室外で遠くを見る)という活動で近視の有病率の減少に成功しています。
現在、国際的に有効性が示されている近視進行抑制の治療法には、低濃度アトロピン点眼、オルソケラトロジー、多焦点ソフトコンタクトレンズ、累進屈折力レンズを使用した特殊眼鏡などがありますが、その多くは保険診療の範囲では認可されておらず、自費診療で一部の医療機関で行われているのみです。
(2023.09.27)