金藤 直樹
(きんとう整形外科クリニック)
皆さんはロコモティブシンドローム(運動器症候群)という言葉を耳にしたことがありますか。略して『ロコモ』。病気ではありませんが、年齢とともに骨や関節、筋肉などの運動器の衰えが原因で、立ったり歩いたりすることがつらくなる状態を指します。日本人の平均寿命は延び続け、2016年では男性80.98歳、女性87.14歳と男女とも香港に続いて世界第2位です。しかし、介護を受けたり寝たきりになったりせず、日常生活を送れる期間「健康寿命」は男性72.15歳、女性74.79歳です。男性で約9年、女性で約12年何らかの介護を必要とする期間があるということになります。介護が必要となった原因は骨折・転倒・関節疾患、いわゆるロコモが22.7%で第1位になっています。以下脳血管障害18.5%、認知症15.8%、高齢による衰弱13.4%と続きます。したがってロコモを予防することは寝たきりの予防に大変重要となります。
ロコモの要因には大きく分けて三つあります。一つは身体を支える骨の強度。骨がもろくなる骨粗鬆症では簡単に骨折してしまいます。次に関節。変形性膝関節症による膝痛、変形性腰椎症による腰痛などが長引くと、長時間歩くことができなくなってしまいます。もう一つは神経、筋肉です。脊柱管狭窄症による下肢痛、加齢にともなう筋力の低下は歩行だけでなく寝起き、立ち座りが困難になります。
骨粗鬆症は全国で男性300万人、女性1,000万人いると推定されていますが、治療を受けているのはわずか15%にすぎません。現在多くの薬が開発されており、骨折予防効果も十分期待できます。骨折が起こる前に整形外科での検診をお勧めします。特に65歳以上の女性は、一度骨密度を測定してみてください。関節痛、腰痛、神経痛は整形外科の一番得意とする分野ですが、筋力低下だけはお薬ではどうにもなりません。50歳を過ぎたらウォーキング、簡単な筋トレなど体力に合わせて運動を続けることが大切です。高齢者でもできるロコモ体操もあります。インターネットでも詳しい体操の内容を知ることができます。10年後の自分のために、今からストップ・ザ・ロコモ。
(2019.01.29)