まつい整形外科 松井 俊明
整形外科で骨粗鬆症による骨折と言えば、股関節の骨折、手首の骨折、背骨の骨折が三大骨折(?)ですが、私のような開業医が最も頻繁に遭遇するのは背骨の骨折、脊椎圧迫骨折です。圧倒的に女性に多い骨折ですが、高齢化のためか男性にも頻繁に見られる様になってきました。
室内で転倒し尻もちをついた、灯油ポリタンクを持ち上げた、など軽微な外力が原因となることが多く、「こんなことで骨折するの?」と疑問に思われる患者さんもいます。
実は、日本の80歳以上の女性の骨粗鬆症有病率は80%を超えています。しかし、治療を受けている方は20%、骨粗鬆症の健診を受けている方は5%しかおらず、骨粗鬆症への認識がまだまだ不足していると思われます。
骨粗鬆症による脊椎の圧迫骨折は2/3が無症候性であり、自然治癒している例が多いと考えられます。しかし腰椎圧迫骨折は痛みが強く、体動困難で入院が必要となることも少なくありません。中位胸椎圧迫骨折は背部痛よりも前胸部痛や腹痛を訴えることも多く、内科の先生より紹介され圧迫骨折が判明することもあります。
脊椎圧迫骨折は、通常、コルセット固定などを行い2か月程で骨がつきますが、中には骨がつかず痛みが続くことがあります。特に問題となるのは第12胸椎圧迫骨折です。胸椎は骨折が進行しても肋骨が付いているため椎体が極端に潰れることはありませんが、第12胸椎は肋骨が短いため際限なく潰れて脊髄を圧迫する破裂骨折になることがあります。すると排尿排便障害や歩行障害などの脊髄症状が出現します。隣の第一腰椎も破裂骨折になりやすい部位ですが、ここは脊髄が紐状の馬尾神経になっているため、どんなに潰れても脊髄症状は出にくいです。
脊髄症状が出ると手術治療の適応となり、骨セメントを用いた椎体形成術や、圧迫部の骨を削りスクリューとロッドで固定する後方除圧固定術などを行いますが、骨自体が脆く高度な技量が必要です。
骨粗鬆症の治療薬は、以前はビタミンD、Ca製剤しかありませんでしたが、その後骨吸収抑制剤が広く使われるようになりました。しかし最近は骨形成促進剤が開発され、今まで“守りの薬”だけだったところ、“攻めの薬”が使われる様になってきました。今はまだ整形外科医の専売特許の感がありますが、今後は他科でも使われるようになると思われます。
(2024.01.30)