宮尾 益道
(宮尾耳鼻咽喉科クリニック)
ある日突然、目が閉じられない、水を飲むと口からこぼれる、といった顔面の麻痺症状が出現したとき、脳に何か問題が起きたのではないかと心配になると思います。実際に脳梗塞や脳出血が原因で起こる顔面の麻痺(中枢性顔面神経麻痺)もありますが、頻度は少なく、多くの麻痺は脳から離れたところに原因がある末梢性顔面神経麻痺です。顔面神経は、耳を形成する側頭骨の中にある顔面神経管を通っているために、耳鼻咽喉科との関連が深く、従って顔面神経麻痺の治療も耳鼻咽喉科を中心に行われます。
ヘルペスウイルスなども原因となりますが、はっきりわからない特発性のもの(発見した人の名前をとってベル麻痺といいます)が最も多いです。次に多いものがハント症候群といわれるもので、水痘帯状疱疹ウイルスが原因で出現します。典型的なハント症候群は、耳周囲に痛みを伴う水疱を認め、顔面麻痺以外にも難聴やめまいを伴います。他に中耳炎、側頭骨の骨折、腫瘍(耳下腺、聴神経)による神経の圧迫など様々なものが原因となります。
治療の基本は、副腎皮質ステロイドの投与です。それに血液循環を良くする薬やビタミン剤などを併用します。ウイルス感染が強く疑われる場合は、抗ウイルス薬も投与します。ベル麻痺は治りやすく、適切な治療を行えば治癒率は9割位になります。ハント症候群では6割程度の治癒率でやや治りにくく、難聴やめまい症状も持続することがあります。
耳鼻咽喉科では、耳内の診察に加え麻痺の程度をスコア化して評価します。重症例に関しては、顔面神経を電気刺激する検査を行い今後の見通しを評価します。薬の治療で今後の改善の見込みが極めて低いと判断された場合は、手術治療を検討します。顔面神経は中耳付近で骨のトンネルを通っています。麻痺が起きているとき、炎症による神経の腫れが起こり、骨の中で神経が圧迫されている可能性があります。これが考えられる場合、骨のトンネルを顔面神経を傷つけないように削って開放する顔面神経減荷術を行います。手術は病院などの高次医療機関にて行います。
顔に違和感を感じたら、まずお近くの医療機関に早めに受診し初期治療を開始するようにしてください。
(2019.06.26)