医療法人恵生会 南浜病院
金子 尚史
うつ病などの抑うつ症状のある疾患を治療していると、ある程度まで改善しているのにすっきりと良くならない、特に、元の職場や学校に戻れない、人間関係に入っていけない、もしくは入って行っても容易に再発するという方がおられます。そういう方の中には、いわゆる自己肯定感が低い方がいるように感じます。自己肯定感の低さがうつ病などの原因というわけではないのですが、症状の回復、特に社会復帰や社会参加の障害になる場合があります。最近は自己肯定感を扱った書籍や記事を目にすることも多くなりましたが、その中には説明不足と感じるものもあります。
自己肯定感を高める試みとしてよく見られるのが、自分の良いところに目を向ける「良いところ探し」です。さらに欠点と思っている特性を長所として見る「捉えなおし」も見られます。そのような取り組みもよいと思われます。しかし、良い面に目を向け長所と捉えられることを増やしても、他者からも同じように評価されるとは限らず、そのギャップに悩むことになります。また短所を長所として捉えられるということは、長所を短所として捉えることもできます。自分には様々な特性がありそれが役に立つこともあれば不利に働くこともあること、そのような面を含めて自分を肯定的に捉え、自分に普遍的な価値があることを認めるのが重要と思われます。しかし自己肯定感が低くそのために悩んでいる方に「自己肯定感が低いとよくないから高めなさい。自分を肯定的に捉え、自分の価値を認めなさい」と勧めても、自己に対する否定的、批判的評価と受け取られる可能性があります。頭で理解したり他者から言い聞かせられたりするのではなく、「自分には価値がある」「自分は存在してよい」と感じられる“体験”を繰り返すことで自己肯定感が高まると言われています。それには時間が必要です。
最後に、自己肯定感を高めるだけで抑うつの予防や回復ができるわけではありません。また抑うつのために自己肯定感が低下し、治療することで回復する場合もあります。普段と違う元気のない様子が続いたら、まずは医師に相談することを勧めます。
(2020.02.27)