しんメンタルクリニック
上馬塲 伸始
不眠症は代表的な睡眠障害の一つで、成人の30%以上で不眠症状があり、6~10%が不眠症に罹患していると報告されています。厚生労働省研究班の調査によれば、睡眠薬は日本の成人の20人に1人が服用している薬です。過去の疫学調査によれば、1か月以上持続する慢性不眠症に陥ると、その後も症状が続き難治性であることが明らかになっています。慢性不眠症患者の70%では1年後も不眠が続き、約半数では3~20年後も不眠が続きます。
『睡眠薬を飲むと止められなくなるのではないか』という心配をおっしゃられる患者さんは多いです。
過去には強い依存性を持つ薬もありましたが、現在使われている大部分の睡眠薬には強い依存性はありません。そのため、服用を始めてすぐに止められなくなるということはありません。不眠症は本人の苦痛も強く健康年齢にも関わってくる疾患であり、まずは医師の指示通りに服用して症状は改善させることを最優先にしたほうがいいでしょう。
また『長期服用によって認知症になるのではないか』という心配のお声をいただくこともあります。
睡眠薬の長期服用によって一時的に認知機能(記憶力・判断力など)の低下が生じることはあります。休薬することで多くの機能は回復しますが、回復までに時間がかかる機能もあります。『睡眠薬を服用すると認知症が発症しやすくなるか』の調査の結果は一定せず、結論が出ていません。認知症のリスクが高まるという報告では、数年~十数年にわたる長期服用が原因となり、1.5~3倍程度罹りやすくなる、とされています。ただし、不眠症自体も認知機能低下のリスクを高めるという報告もあり、不眠症状が強いときは治療を受けたほうがいいと考えられています。睡眠習慣の改善や認知行動療法などの薬物以外の治療法も行いながら薬の服用期間と量を増やさないように心掛けながら治療を進めることが望ましいでしょう。
不眠症が治っているか判断のポイントは2つあり、1つ目は夜間の不眠症状が改善していること、2つ目は日中の心身の調子が良いこと、です。不眠症が治っていても、長期間服用した後に一気に中断すると不眠症状が一時的に悪化することがありますが、1種類の睡眠薬を4分の1錠ずつ、1~2週間かけて減らしていくなど、徐々に減量することで症状を避けることができます。適切な方法で減薬しても不眠症状が続く場合は不眠症が治っていない可能性があるので、治療を再開する必要があります。
睡眠薬が怖くて治療を始めないでいると、色々な精神・身体症状や生活の質の低下が続く可能性があります。勇気を出して心療内科・精神科への受診を検討してみてはどうでしょうか?
(2025.02.28)