宇都宮 悟(新潟大学医学部保健学科)
棚邊 哲史(新潟大学医歯学総合病院放射線治療科)
「医学物理士」とは、放射線治療の分野で増えている医療職です。「医学」と「物理」は聞いたことがあると思いますが、それらを合わせた「医学物理(士)」について聞いたことのある方は少ないのではないでしょうか。
1895年にX線を最初に発見したレントゲン博士の名前は多くの方がご存知と思いますが、職業をご存じでしょうか?実は彼の職業は物理学者です。レントゲン撮影は、今ではどの医療機関でも普通に行われており、これは物理学が医療に貢献した例と言えます。X線の発見以降も、多くの物理学者がX線の様々な性質を明らかにしてきました。そして、20世紀の後半以降になされたCT装置、MRI装置、放射線治療装置など、現代の医療に欠かせない装置の開発にも物理学が深く関わっています。
医学物理士とは、「放射線を用いた医療が適切に実施されるよう、医学物理学の専門家としての観点から貢献する医療職である」(日本医学物理学会HPより)と定義されています。簡単に言うと、「放射線医療における物理学のスペシャリスト」ということになるでしょうか。近年、放射線医療で使われる様々な装置は急速に高性能化していますが、その分複雑化しており扱いが難しくなっているという面もあります。そのような装置を適切に管理し、主に医師や診療放射線技師の方々と協力しながら、精度の高い診療を担保する職業が医学物理士であると言えます。
放射線治療において最近急速に普及しつつある技術に「強度変調放射線治療(IMRT)」があり、前立腺癌や頭頸部癌などの治療に用いられています。IMRTは通常の放射線治療に比べて非常に複雑な技術なので、患者さんの体内の線量分布を最適なものに調整することや、想定された線量が実際に照射されているかどうかを検証する際に医学物理士が活躍することが多いです。医学物理士は、今後益々、放射線医療における活躍の場を広げていくことが予想されます。
(2019.03.27)