新潟県立がんセンター新潟病院 放射線治療科
松本 康男
近年、放射線治療装置は様々な分野の高度な技術が投入され、従来の放射線治療(従来法)では困難であった「病巣の形状に合わせて照射する」ということも可能になりました。強度変調放射線治療(Intensity Modulated Radiation Therapy: IMRT)という技術です。
一般的に放射線量を増やせば殺腫瘍効果は上がりますが、放射線量の増加は、同時に周囲の正常組織への線量増加にもつながり、合併症の確率も高くなります。そのため、従来法では腫瘍の発生した臓器や周囲正常組織の許容できる線量(耐容線量)が障壁となって、腫瘍を殺すには十分な線量を投与できないことがしばしばあります。
従来法は照射する面(照射野)において、ほぼ均一の強さで照射しますが、IMRTでは、照射口のビーム形状を照射中に変化させて放射線強度を不均一にして照射を行います。照射中、沢山の金属板を照射口内で出し入れすることで照射野の形状を刻々と変化させて、ビーム内の放射量に強弱をつけます。同様のビームを多方向から組み合わせることで、ターゲットの形状にフィットした線量の分布ができあがります。
IMRTで利用される計算法は、標的となる腫瘍や周囲の正常臓器の線量をあらかじめ数値入力することで規定し、コンピュータにプランを作成させます。人間が試行錯誤を繰り返しても、理想的な線量分布を得ることは至難の業で、代わりにコンピュータが何千・何万通りのプランの中から最適なプランを算出してくれます。
最近では、IMRTの応用型で、回転しながらIMRTを行うという強度変調回転照射法(Volumetric Modulated Arc Therapy: VMAT)という技術も開発されました。回転速度や時間あたりの線量をも変化させながら強度変調照射を行うという方法で、非常に複雑で高度な計算技術により可能となりました。この方法で1回の治療時間は通常のIMRTより大幅に短縮しました。
これらの技術を利用することによって複雑な形状の腫瘍でも周囲への線量を抑えたまま病巣に高線量を集中させることができるようになり、腫瘍制御率の向上や合併症の軽減が期待されています。
(2020.03.25)