新潟大学医歯学総合病院 放射線診断科
佐藤 卓
皆さんは「核医学」と聞いてどのようなイメージを持たれるでしょうか?
「核」と聞くと核兵器の悪いイメージが頭に浮かぶかもしれませんが、核医学は医療のために放射性物質を有効活用したものです。不安定状態の原子核が安定状態に変わっていく過程で発生する放射線を病気の診断や治療に役立てています。
被ばくが気になるという方がいるかもしれませんが、核医学検査で受ける放射線量は全身のCT検査と比べても低いか同等程度までであり、人体に影響を及ぼすようなものではありません。
核医学検査の一番の特徴は、人体の「機能」を画像化できるという点です。体のどのような機能を評価したいかによって検査で使う薬が変わります。脳、心臓、がんの状態を確認するための検査が多く行われていますが、脳や心臓、がんも様々な機能があり、それぞれを確認するための多種多様な検査が行われています。最近では一部の機能はCTやMRI検査で評価できることもありますが、核医学でしかわからないことも多く、様々な場面で日常診療に欠かせない検査です。
ただし、核医学の薬は被ばくを適正に抑えた上で最適な結果を得るために使用方法に制限があります。また、薬剤は検査・治療の予定時間に合わせて用意されるオーダーメイドのようなもので、予定時間を逃すと使えなくなります。検査の事前準備や予約時間を守れないなど、患者さんの都合によるキャンセルは高額の薬剤代金を支払う必要が生じることもありますのでご注意ください。
長らく新しい検査が出ない時期がありましたが、2023年末にアルツハイマー型認知症の評価のための脳アミロイドPET検査、2024年6月に脳腫瘍の評価のための脳アミノ酸PET検査が保険診療で使えるようになりました。
また、世界中で研究・開発が進められているのが「ラジオ-セラノスティクス」という「放射線-治療+診断」という意味の概念に基づいた診断薬+治療薬の組み合わせです。同一の細胞に集まる性質を診断薬と治療薬の両方に持たせ、まずは診断薬で病気に集まることを確認し、次に病気のところだけを治療薬から出る放射線で治療します。治療薬の効果が期待できるかを確認しながら治療ができる利点と、病気だけを攻撃することで抗がん剤などと異なり全身の副作用を抑えられる利点があります。日本では核医学治療の導入が世界に比べ非常に遅れていますが、近年新しい治療薬が国内でも認められてきています。
セラノスティクスによって、これからも発展していく分野として期待されるとともに、現状では海外からの輸入に頼っている薬剤の国内生産に向けた動きが活発化しています。
医療現場において新しい核医学に対する期待が高まっていると実感する今日この頃であります。
(2025.03.31)