済生会新潟病院 外科 武者 信行
太りたくて太っているわけでもないのに、ともすれば「だらしなくて自己管理能力がないから」と揶揄されたりもする肥満。ですが肥満も立派な病気です。
内臓脂肪型肥満を原因に健康への悪影響、例えば糖尿病やその予備群、高脂血症や痛風、心臓や脳の血管の病気、脂肪肝、月経異常、ひざの痛みや腰痛、睡眠時無呼吸症候群などが既に現れている状態を「肥満症」といいます。
では誰もが一度は耳にしたことのある「メタボリックシンドローム」とは何が違うのでしょうか。内臓肥満に高血圧、高血糖、高脂血症が組み合わさり心臓病や脳卒中などの動脈硬化性疾患をまねきやすい状態のことをあらわし、言い換えれば「肥満症」への大きな道筋を指し示した状態かもしれません。慶応大学の伊藤裕先生が提唱した「メタボリックドミノ」(図)では、その出発点に生活習慣の乱れから起こる肥満を位置付け、最終的には種々の重篤な動脈硬化性疾患に到達すると解説しています。
今世界中で肥満者の増加による肥満関連疾患の重篤化と医療費の増大が問題視されています。肥満関連疾患を軽減することは医療経済的に意味があるばかりか、国民全体の健康寿命の延伸につながるともいわれています。
「高度肥満症患者」に対する内科的治療には限界もありますが、その一方で外科的治療には長期的な減量効果が約束されており、肥満関連障害の改善も良好であるといった科学的根拠が存在します。この肥満外科手術は体重減少のみならず、2型糖尿病などの代謝疾患が術後早期に改善することから、メタボリックサージェリー(代謝改善手術)と呼称され注目されています。代表的な手術方法としては、食事摂取制限を目的にした胃バンド術、胃を細くする袖状切除(スリーブ状胃切除)、胃と腸をつなぎ変える胃バイパス術があり、本邦でも2017年に471例、2018年には687例の手術が行われました。その一方で、平成28年度厚生労働科学研究費補助金で行われた「食欲中枢異常による難治性高度肥満症の実態調査」のための研究班(龍野班)は、現在すでに手術適応と考える高度肥満を有する2型糖尿病患者さんは国内に3万人も存在すると推定しています。
内科と外科が協力して治療を進める肥満症治療ですが、この最終目標は「体重を落とすこと」ではなく関連疾患からの解放であり、その先にあるのは「患者さん自身が幸せになる」ということなのです。
(2019.08.28)