スポーツ脳震盪の診断に役立つ新しい臨床評価ツールとガイドラインを紹介します。
脳震盪は、プライマリー医療の対象として身近な疾患であるにも拘らず、古くから様々な診断基準があり、専門医以外には分かりづらい疾患です。極めて多彩な症状を呈することから、正直いって専門医にとっても分かりづらいです。稀ですが、重大な頭蓋内疾患の鑑別にも留意しなくてはなりません。また、脳震盪の臨床診断で問題のないケースであっても、脳に加わった(一時的な)ダメージが充分に回復しないうちに競技に復帰した場合に、更に重大な脳損傷に繋がる例がしばしば報告されています。一見何にもないように見えても、脳の中では様々な変化が起きており、その根拠が最近の研究で次第に明確になってきました。
スポーツ脳震盪に関する国際会議では、それらをふまえ、脳震盪後の状態を評価するための標準的なツールとしてSCAT(プラハ会議2004)を開発し、次いで、その改訂版としてSCAT2(チューリッヒ会議2008)を定めました。現在、SCAT2は標準的な脳震盪評価ツールとして国際的に認知されています。脳震盪対策に頭を悩ませていた有力なスポーツ団体も、共同で、重大事故発生の予防につなげることが重要であるとの認識のもと、この評価ツールを推奨しています。頭部外傷の専門家でなくても容易に評価できるように、客観性を持たせた点が大きな特徴と言えます。それなりに客観性が担保され、継時的な評価も可能であることから、専門医にとっても役立ちます。
日本でも、神経外傷学会などがSCAT2を推奨しています。また、平成23年度からは、サッカーやラグビーなどの競技連盟が,1)スポーツ現場での脳震盪への対応を見直し、2)競技に復帰する場合には,競技団体が指定する段階的な復帰プログラムに従うこと、3)競技への復帰前に、必ず医師の診察を受けることなどを義務化するようになりました。レフリーや選手にも講習会を通じてSCAT2や段階的復帰プログラムの存在を積極的に周知しています。これらは、脳震盪に関する国際会議や国際スポーツ連盟の共同勧告に従った動きです。
SCAT2による脳震盪の評価については、添付資料(1)(PDF版ダウンロード可)を参考にしてください。文末に医師による診断書書式も付録しています。添付資料(4)はSCAT2の無料アプリ(iTuneのサイトからダウンロード可)です。現時点で英語版しか用意されていませんが、症状等を入力すると自動的に総合評価が表示され、試合現場では携帯端末でも利用可能です。但し、注意していただきたいのは、SCAT2の評価ツールはあくまでも補助的なものであり、最終的な診断評価については医師自身が行う必要があります。
回復段階に応じた復帰プログラムの必要性とその意義や、スポーツ脳震盪における医師の役割については、添付資料(2)、添付資料(6)、添付資料(7)、添付資料(8)(PDF版ダウンロード可)を参考にしてください。これは日本ラグビー協会が出している資料です。
マッチドクターとして試合に協力する場合は、サイドライン(試合場の外)での現場診断に有用な簡易版の添付資料(3)(PDFダウンロード可)を参考にしてください。携帯端末を持参する場合には資料(4)も利用できるでしょう。
なお、意識障害の評価の際には、資料(5)(PDF版ダウンロード可)のGlasgow Coma Scale(GCS)に従ってください。日本独自の3-3-9度方式の意識障害評価は、脳卒中を主な対象とする評価基準であり、頭部外傷の診療現場では殆ど用いられていません。
先進国では、受傷前後の状態を比較し脳震盪の評価に役立てるため、シーズンが始まる前に、SCAT2による評価と記録の保存を推奨しています。日本の場合は、平成24年時点で、文部科学省の審議会での検討が始まったばかりで、学校教育の現場までSCAT2が浸透しておらず、各競技団体が先行的に実施しているに過ぎません。競技者の脳を守りつつ、競技スポーツの健全な発展を目指すためにも、行政レベルでも早急に対策を講じていただきたいと願っています。
2012.11.16
鷲山和雄
(新潟大学脳研究所)
医学や健康の専門家向けの標準化された国際的な評価ツールです。
医師が発行し、選手に渡す書類も含まれています。
原著はNeurosurgeryなど国際的な医学雑誌に掲載されています。
(例:ラグビー競技の場合)
スポーツ現場で脳震盪を疑う為の診察マニュアル(簡易版)
AppleのiTunesサイトから無料でダウンロードできます。
所見や数値を入力すると自動的に総合評価が計算されます、(但し、英語版のみです。)
(例:ラグビー競技の場合)
(例:ラグビー競技の場合)
(例:ラグビー競技の場合)